西陣の2文字でつながる、熱く優しいコミュニティ「つぎの西陣をつくる交流会(つぎにし)Vol.7」

2022.09.21


「碁盤の目」のようだと表現される、京都の町並み。
東西南北まっすぐに伸びた路地によって、それぞれのエリアが綺麗に区切られています。

しかしその中で、境目が曖昧なエリアがあります。それは、西陣。西陣郵便局や西陣織など、オフィシャルな名称に用いられているにも関わらず、地図をくまなく探してみても、「西陣」という住所を見つけることすらできません。

そんな西陣は、近年、幅広い分野で活動を展開する人が増え、盛り上がっているのだそう。熱い方々が集う、西陣の新しいつながりを予感させるイベント「つぎの西陣をつくる交流会(つぎにし) Vol.7」が開催されると知り、会場を覗いてみました。

つぎにしとは、西陣を中心に人や企業、地域団体がつながり、協業や広がり生まれるようにと企画された交流会のこと。昨年度までは京都市の委託事業としてツナグムが運営を行っていましたが、今年度からはツナグムの自主事業として開催しています。

2022年7月20日に開催された今回のつぎにしは、2019年12月の第1回からコロナ禍でのオンライン開催を挟んで、回を重ねること7回目。京都信用金庫西陣支店2階「クリエイティブコモンズNISHIJIN」にて、久しぶりのリアル開催になりました。

参加者として集まったのは、まちづくりに携わる方から、伝統工芸を営む方、会社員や大学生など、様々な背景を持つ約50名。始まる前から賑わいを見せる中、司会のタナカユウヤ氏の挨拶で、会の幕が開きました。

オープニングトークに登壇したのは、西陣でカフェを併設した宿泊施設「KéFU stay&lounge(以下、KéFU)」を運営されている横山恵さん。

横山さんは2019年に開催された、第1回つぎにしのプレゼンターでもありました。その当時は、まだKéFuがオープンする前。前回の登壇では「KéFuって何?」という声がほとんどでしたが、今回は「KéFuを知っている人?」という横山さんの問いかけに、たくさんの参加者が手を挙げて答えていました。

横山:KéFuがオープンしたのは2020年4月。「いつもの京を、特別な今日に」「些細な日常から旅をみつける」というコンセプトのもと、運営をしています。活動をする中で「地域の方が、自分の地域の新しい魅力を見つけるきっかけづくりがしたい」という新しい想いが生まれました。地域の食材をつかったカフェメニューの開発や、近所のコーヒー屋さんの豆を自分で淹れて楽しめるスペースづくり、西陣フォトウォークの開催など、試行錯誤しています。

また2021年には「オサノート」という西陣にまつわるローカルメディアも立ち上げました。今はスタッフや大学生の皆さんと一緒に、12名で運営しています。最新号のフリーペーパーは、西陣織の職人さんから糸をいただき、1冊ずつ糸とじをしました。KéFu がオープンしてすぐにコロナ禍になったので、思うように動けないときもありましたが、地域の皆さんに協力してもらいながら活動を積み重ねてこれたのだと実感しています。

ここで、KéFuの活動をオープン前から見守ってきた司会のタナカ氏から、いくつか質問が投げかけられました。

タナカ:横山さんは京都外からの移住者ですよね。この3年間で、たくさんのつながりをつくってこれた秘訣はなんですか?

横山:声をかけていただくイベントや場所に、とにかく行ってみることです。また私のまわりのスタッフは、自分たちの活動をSNSなどでたくさん発信してくれるんです。それに関心がある方が、たくさん集まって来てくれて、つながりが生まれていますね。

タナカ:KéFuさんならではの宿泊プランはありますか?

横山:少し前に、期間限定で銭湯プランをつくりました。お客様におすすめの銭湯を聞かれることが多かったので、近所の魅力的な銭湯を紹介したいと企画したんです。ただプランをつくるだけでなく、銭湯のスタッフさんと一緒にイベントをしたり、PR活動をしたりしました。次はもっとたくさんの銭湯とコラボしてみたいです。

タナカ:西陣に興味のある方がKéFuさんに連泊して地域を楽しんでみるなど、西陣の入り口としても機能していると思います。横山さんが西陣について感じることや、これから挑戦してみたいことはありますか?

横山:西陣で活動してまだ2年半ほどですが、どんどんプレーヤーが増えてきており、地域の深みを感じています。仕事やイベントなど、ぜひ一緒にコラボができたら嬉しいです。

KéFu stay&lounge
オサノート

横山さんによるオープニングトークが終わった後は、隣り合った参加者同士で自己紹介タイム。場が盛り上がったところで、6組の方々が、それぞれ7分間ずつプレゼンテーションを行いました。

移住者目線で!西陣エリアの情報発信に取り組む
俵谷 龍佑氏(ライティングオフィス「FUNNARY」)

2021年6月に、東京から京都市北区に移住してきた俵谷さん。フリーランスのライターとして、主にSEO対策とインタビュー記事作成の2つを専門に活動されています。日々のお仕事の内容についてプレゼンテーションをしてくださった一方で、この日は「信楽たぬき」への想いについても熱く話していただきました。

俵谷:僕、信楽焼たぬきが大好きなんです。街角で見つけたらぜひ観察してほしいのですが、一匹一匹顔も違うし、たくさんの種類がいるんです。京都に引っ越してきて、今やりたいなと思っているのは、西陣織と信楽焼たぬきのコラボです。西陣織の端材を使って、ワークショップでたぬきの衣装を一緒につくり、展示ができたら楽しいなと思っています。まだ構想段階なのですが、たぬきが家にいる方、生地を提供してくださる方、ワークショップで前掛けを制作できる方がいたら、ぜひ声をかけていただきたいです!

FUNNARY

街歩きを通して未来の西陣の街を考えるdédédéプロジェクトとは?
竹内 雄一郎氏(ソニーコンピュータサイエンス研究所 京都研究室)

2020年4月に設立された、ソニーコンピュータサイエンス研究所 京都研究室。「ゆたかさ」を全体のテーマにかかげ、日々研究をされています。ここで研究員として働く竹内さんから、現在進めている「dédédéプロジェクト」についてお話をいただきました。

竹内:このプロジェクトは、街の中にある「ええで」「あかんで」「なんで」を集めた、ソーシャルメディアをつくろうというものです。例えば、面白いかたちのベンチがあったら「ええで」、車椅子が入りにくい公園を見つけたから「あかんで」など。街に対する意見を気軽にシェアすることで、街を意識的に見たり、未来の街や社会のあり方について考えたりするようになればと考えています。
2022年の1月からプロジェクトを始め、これまで京都で何度も実験を重ねてきました。みなさんも参加できるようなワークショップやイベントはどんどん企画しているので、ぜひ参加してもらえたら嬉しいです。

ソニーコンピュータサイエンス研究所 京都研究室

西陣555とNCC(仮)の立ち上げについて
河合 大治郎氏(京の帯処西陣屋)
松崎 圭佑氏(同志社大学 3回生)

2022年は、西陣という名前がついて555年という記念の年。「西陣呼称555年特別部会」の一員として、西陣織を盛り上げる活動をしている河合さん、NCC(西陣クリエイティブサークル)でアートフェスを企画する松崎さんが、それぞれ活動を紹介してくださいました。

河合:西陣織はハードルが高い、と思われている方もいると思います。その意識を変えたいなと、11月11日(西陣の日)〜11月15日(きものの日)を「西陣CROSS week」と名付け、様々なイベントを企画中です。
また、毎週木曜日には西陣織工業組合のFacebookページからライブ配信を行っています。「西陣CROSS week」では、着物のファッションショーやマルシェなどのイベントを開催する予定なので、楽しみにしていてください。

松崎:僕はアートの力で、西陣地区を面白く自由に表現できないかと考えています。アートは、表現者と鑑賞者がいて、相互に影響しあうものです。西陣を舞台にアートコンペをしたり、西陣にアーティストさんを呼んで作品制作を行ってもらったり。西陣アートフェスとして、この地域を盛り上げていきたいと考えています。未定の部分も多いですが、これからの西陣のために、応援してもらえたら嬉しいです。

西陣555記念事業

歴史ある建物の保存活用を応援するコミュニティカフェ
小出 純子氏(ぶんぶんカフェ・1級建築士事務所 J’sATELIER)
北條 順子氏(ぶんぶんカフェ・まちとくらしの企画室)

長い間、空き家だった町家を改修してオープンした「ぶんぶんカフェ」。京都のまちなみや、古民家、まちづくりなどに関心がある人が集まるコミュニティカフェとして運営されています。「歴史ある建物の保存活用を応援したい」という小出さん・北條さんは、なぜカフェという活動に行き着いたのでしょうか?

小出・北條:京都には、文化財マネージャーという制度があり、大切にしたい歴史的建造物を保存活用していく育成講座の修了者がマネージャーとして登録しています。私たちは2人ともそのマネージャーなのですが、あるとき保存活用していくために調査した建物が解体されてしまいました。建物の所有者さんは「建物にはとても愛着があったが、独力で守るには限界があった」と語っておられ、もっと何かできることがあったのではと考えるようになりました。大きなことが起きる前に、日常的にご縁をつないで、助け合いたい。そんな思いから、ぶんぶんカフェをオープンしました。
文化財に興味がある方もない方も、もっと輪を広げていきたいので、気軽に遊びに来ていただきたいです。一緒にイベントを企画してくれる仲間も募集しています!

ぶんぶんカフェ(Instagram)

福祉施設とデザイナーによる協業のカタチ
大藤 雅幸氏(オパスグラフィカ)

東京と京都を行き来しながら、デザイナーとして活動している大藤さん。西陣のクリエイティブプラットフォーム「西陣ネイバーフッド」のロゴをデザインされたのも大藤さんです。以前、仕事の中で地域の小中学生に公募をかけたところ、目を引くデザインがあったそう。その出会いから、大藤さんのライフワークとも呼べる取り組みが始まりました。

大藤:目を引いたそのデザインは、障害者支援施設の子どもたちが描いてくれた絵でした。そこからのご縁で、施設の子どもたちに絵を教えに行くことになったんです。ある時の昼休みに、施設でつくったお弁当を販売して、就労支援につなげたいと先生から相談を受けました。子どもたちが描いた絵を使って、お弁当のパッケージをつくってみたところ、月の販売個数が8倍以上になったんです。
絵を活用して、様々な商品に使用する。そして、1個1個に著作権を発生させて、作者にきちんとお金が入るシステムにする。この取り組みを「キリトリデザイン」と名付けました。このノウハウを本にまとめて出版したいと思っています。
まだ東京でしか取り組めていませんので、西陣で協業ができる業者さんがいましたら、ぜひお話しできたらと思います。

オパスグラフィカ
キリトリデザイン

海洋ゴミ問題にソーシャルビジネスで挑戦するRanchuについて
大束良明氏(創価大学3年生)

小さな頃から海が好きだった大束さんが起業したのは、2020年1月。当時高校3年生だった大束さんは、お年玉を1年分のお小遣いとしてやりくりしていたそう。「卒業後はいっぱい遊びたい!」と思い、お金を稼ごうにも、生徒手帳にはバイト禁止の5文字。しかし、どこにも起業禁止とは書いていないぞと、事業を始めたそうです。

大束:最初はブログ運営で資金を稼ぎ、クリアバンドを販売するECショップを立ち上げました。注目を集めていましたが、僕たちの商品が海洋ゴミにつながっていることに気づき、2021年10月に方針を変更したんです。地球に優しいアイテムの販売を通して、海洋ゴミの削減を目指す海洋保護企業「Ranchu」として再スタートしました。

現在は海洋プラスチックを100%利用したネックレスや、土にかえるスマホケースなどを開発中です。カーボンニュートラルな配送を実現したり、地球に優しい素材を使ったりすることで、2050年までに海洋ゴミを90%削減することを目標にしています。素材に詳しい方や、デザイナーの方など、地球社会と生命の尊厳のために力を貸してくれる方がいましたら、ぜひ協力してください。

Ranchu

6組の皆さんによるプレゼンテーションの後は、イベント終了の時間ギリギリまで、楽しそうな笑い声が会場に響いていました。

この夜、つぎにしで見た盛り上がりは、偶然生まれたものではありません。過去の積み重ねがあるからこそ、こうして安心して新しいつながりが築けるのだと思います。

Twitterの検索欄に「#つぎにし」と入力してみると、これまでの取り組みがよく分かります。また「つぎにしラボ」ではオンラインでの交流が、「西陣ネイバーフッド」では新しいかたちの町内会がそれぞれ誕生しています。

西陣織や西陣郵便局など、様々な名称にも使われている西陣の2文字。しかし京都の住所をすみずみまで調べてみても、「西陣」という地名を見つけることはできません。
明確に範囲が決められていないからこそ、その境界線はゆるやか。たくさんの方が出入りし、多様な価値観や取り組みが混ざりあうことで、熱く優しいコミュニティが生まれているのだと思います。

11月には、第8回目のつぎにしが企画されているそう。
次回のつぎにしと、これからの西陣から目が離せませんね!

執筆:小黒恵太朗
編集:北川由依


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