2023.09.22
「つぎにし、まだかな?」
そんな声を、耳にしました。
2023年9月6日に開催された「つぎにし Vol.9」。つぎにしとは「つぎの西陣をつくる交流会」のこと。2019年12月から始まり、前回の「Vol.8」は2022年11月の開催。少し間が空きましたが、その分、きっと期待も高まっていたのではないでしょうか。
その期待を表すかのように、現地とオンラインを合わせ、約70名が集まりました。
今回も、会場は京都信用金庫西陣支店2階「クリエイティブコモンズNISHIJIN」。恒例の、司会・タナカユウヤ氏の挨拶で開会しました。
オープニングトークで登壇したのは、「shirokuma design hut.」の関目峻行さん。「クリエイティブで新たな日常を」をコンセプトに掲げ、建築家としての知見を活かし、企画や空間作り、ビジュアル開発まで、広義のデザインに取り組んでいます。東京や広島、北九州など、日本全国で活動してきた関目さんが、京都にやってきたのは2019年のこと。「西陣ネイバーフッド」の構想づくり・運営にも、大きく尽力されてきました。
関目:西陣ネイバーフッド1回目の展示会「24JIN NEXT」の企画から関わり、什器も作らせていただきました。他にも「西陣connect」の拠点として使われていた場所を活用させていただき、地域の皆さんにお話を聞いたり、アートイベントやマルシェをやってみたりしました(拠点の運用は2022年度で終了)。
また、レンタルスペース「スペースたて680」の西田勝一さん(令和3年度つぎにしに登壇)に相談して、アート作品のガチャガチャを置いてみたり。徳島県の牟岐町(むぎちょう)とのプロジェクトに取り組んでいる京都産業大学の学生たち(令和3年度つぎにしに登壇)から何かしたいと相談を受けたので、千両ヶ辻の伝統文化祭を紹介してみたり。活動を通して、西陣との様々な繋がりができています。
そして、「堀川商店街協同組合 企画広報部」としても活動をしている関目さん。司会のタナカ氏と一緒に、その取組みを紹介しました。
関目:堀川商店街では、非日常のイベントを作るのではなく、日常をちゃんと元気にしましょう、自分たちがやっていることを外に向けて発信しましょうという話をしています。その時に大事なのはブランディング。僕はマーケティングとは「売るゲーム」だと思うのですが、ブランディングは「伝言ゲーム」だと捉えています。きちんと自分たちの思いを伝えられるような仕組みを整えていきましょうという活動ですね。
タナカ:堀川商店街は上が団地になっていて、次第に入居者が増えているんですよね。外から関わる人がどんどん増えて、みんなで場所を作っていくことが大切だなと思います。
関目:「アートと交流」をテーマにした堀川団地には、既に作家さんたちが住んでいらっしゃいます。例えば、飲食店で使われているお皿が作家さんの作品だったら、他のお店との差別化になりますよね。人や作品の受け皿としての新しい役割を、堀川商店街は持てると思うんです。商店街の中にある要素をかけあわせてみるだけで、様々な挑戦ができますよね。
タナカ:続けることによってコラボレーションが増えていきますし、事例が出てくるとさらに関わりやすくなりますね。
関目:活動していると、だんだん住民の皆さんも気づくんですよ。何か動き始めてるなって。そしたら、団地内でなくなってしまった地蔵盆を復活させたいという話が出てきました。今年は、団地住民と商店街、ANEWAL Galleryが一緒に準備して地蔵盆を開催しました。
今回のプレゼンで一番伝えたかったことは、僕の話を聞いてしまった以上、皆さんも共犯者です(笑)。堀川商店街や西陣を盛り上げるために、何かできる方はぜひ一緒にやりましょうね。
関目さんによるオープニングトークの後は、6名のプレゼンターから、それぞれ7分ずつ発表がありました。
江戸時代の享保年間に創業した「芳村石材店」で生まれ育った山田愛さん。300年以上続く家業の仕事をしつつ、石やドローイングを用いた作品をつくる、美術家としての一面を持ちます。作品の鑑賞を通し、見る人自身が心の内側を見つめ直すような時間を作りたいと言う山田さん。作品の写真が見やすいよう、会場の照明を落として、発表が始まりました。
山田:京都では、堀川新文化ビルヂングや、ギャラリー「kokyu kyoto」で個展を開催しました。このとき、以前つぎにしで知り合った「京菓子司 金谷正廣」の金谷さんに、個展で提供するコラボ和菓子をつくっていただいたんです。また家業の石材店では、主に社寺建築などの伝統的な工事のほか、オーダーメイドで石の製品をつくっています。西陣にある瞑想室「OCHILL」の看板を、お客様の文字を元に制作したり、NFTアーティストの作品づくりに協力したりしました。美術家と石材店の仕事、両方で言えるのが、唯一無二の体験を創造するということです。何かを形にしたいという想いは、アーティストだけが持っているものではありません。そういう気持ちに対して、私も寄り添い、実現したいと思っています。1人でできること、石でできることは限られています。様々な分野の方と一緒に、京都発・西陣発で、文化を作っていきたいです。
西陣の真ん中で生まれ育った佐山さん。地元の和菓子会社でデザインやディスプレイなどの仕事を20年近くされた後、2020年にギャラリーヘプタゴンを立ち上げました。ヘプタゴンの意味は、七角形。360度の円周は、7では割り切れないため、不完全な多角形と呼ばれているそう。そんな不完全さを、人間のでこぼことも重ね合わせ、命名されたそうです。
佐山:ギャラリーヘプタゴンは、堀川商店街のすぐ近くにあります。両隣は組紐の会社で、西陣の中にあるんだなということを日々実感しています。ギャラリー自体も、元々組紐の工場だった母の実家をリノベーションしたもの。これまで木版画や鉱物、ドライポイント(銅版画の技法)など、年間15回ほどの展覧会を開催してきました。また、織機とコントラバスを使った音楽ライブや、お茶会などのイベントも行っています。開催中、表の扉はいつも開けっぱなし。ギャラリーに行くのはハードルが高いと思われているかもしれませんので、入りやすく、日常生活の延長にアートがあるような場所を目指したいと思っています。観光ガイドマップの中心からは少し外れているのですが、近所に面白いところはたくさんあります。せっかく自分が暮らすエリアですから、もっと盛り上げていきたいですし、ぜひ皆さんと一緒に展覧会やイベントを作っていきたいと思います。
重永さんが普段研究しているのは、縁日。戦前から現在まで、どのように伝わり変化してきたかを調査しているそう。北野天満宮の近くで育ったため、小さなころから縁日が身近にあったため、興味を持つようになったのだとか。「そういった自分の取り組みよりも、今日は地図の宣伝をしていきたいです」。そんな一言で、重永さんの発表は始まりました。
重永:北野商店街がある交差点は、僕としてはとても心惹かれるところです。京都にしては珍しく道路が斜めに通っていたり、七本松通の北と南では一車線分ずれが生じたりしています。前者はかつて通っていたチンチン電車の名残ですが、後者のずれはなぜ起きたのでしょうか?ここで登場するのが、立命館大学アート・リサーチセンターが公開している「近代京都オーバーレイマップ」。明治時代から現代までの京都全域の地図を、誰でも閲覧することができるんですね。調べてみると、戦時中の道路拡張工事で北では西側、南では東側の建物が撤去されたので、一車線分のずれが生まれたことが分かったんです。また、交差点の近くにある明治時代からやっている豆腐屋さんからは、当時のエピソードなどを伺うこともできました。地図を起点に疑問を膨らませ、それをもとに地域の人から話を聞き、自分が住む町を知っていく。これってすごく楽しいことだと、僕は思うんです。
インクルーシブの意味は、「包み込むような・包摂的な」ということ。「ソーシャル・インクルージョン」という言葉が由来で、すべての人が孤立したり、排除されたりしないよう援護し、社会の構成員として包み、支え合うという意味を持ちます。こうした「インクルーシブまちづくり」を実現するために、新山さんは約15年勤務してきた京都市社会福祉協議会を飛び出し、2023年7月に起業されました。
新山:もし「インクルーシブまちづくり」が実現したら、町中で普段の暮らしを楽しみながらリハビリテーションをしたり、困りごとの当事者さんと一緒に商品開発ができたりするようになるかもしれません。こういう動きが西陣の中に広がったら良いなと思い、起業をしました。既に始まっているのは「きたのま」という私設図書館の運営です。誰でも入りやすい入口をということで、北野商店街に開設しました。ここの特徴は、オーナー制の図書館だということ。本棚の一区画を借りて、皆さんに読んで欲しい本を並べることができるんです。また社会福祉士・介護福祉士が常駐して、困りごと相談に乗っています。私が目指すのは「インクルーシブなまち」ではなく、「インクルーシブまちづくり」。西陣の皆さんと、一緒に困り事を考えたり、暮らしやすい風土を作ったり、こうしたまちづくりを日常風景にしたいです。
17年勤めた新聞社を離れ、2021年からMIKAWAYA21で働き始めた鈴木さん。発表のタイトルにある商助(しょうじょ)とは、企業や事業者がビジネスを通じて地域に貢献し、高齢者の生活を支援する仕組みづくりを進めていくこと。サザエさんに登場する三河屋のサブちゃんのように、地域に愛され、頼られるサービスを目指したいという想いで、活動に取り組んでいます。
鈴木:まごころサポートは、医療や介護保険ではカバーできないシニアのご要望に、ワンストップでお応えするサービスです。例えばお庭のお手入れ、シロアリの駆除、スマホのサポートなどを、パートナー企業や色々な方々と協力し合って解決しています。世界を見ても日本の高齢化は突出していますし、こうした課題は現役世代や、次の子どもたちの世代まで影響するものと捉えています。京都市では2021年からサービスを始めており、25人いるコンシェルジュ(登録制地域スタッフ)と一緒に、毎月150人のシニアにサポートを提供しています。京都市全体で41万人いるとされているシニアの方全員にサポートを提供するには、まだまだ人数が足りませんので、仲間を募集しています。また、2023年10月には、新大宮商店街の南端に実店舗がオープンする予定です。人のインフラを整備し、地域社会をもっと強く、優しくしていきたいなと思っています。
教育コンテンツの企画・運営を主軸にする、合同会社TSUKUMの代表・徳山さん。小中学生を対象にした、ものづくりのワークショップやイベントを、年間20回以上開催しています。記念すべき1回目のワークショップは、ここ、京都信用金庫西陣支店で行ったとのこと。思い出の場所で、事業への想いを発表していただきました。
徳山:大学1回生の秋学期、ある授業を受けました。その内容は新たな価値を生み出すプロダクトをデザインし、3Dプリンターなどを使って制作するというもの。授業の1回目では、先生に「この授業では、失敗しまくれ」と言われました。授業を終える頃には、ものづくりは、トライアンドエラーがコンパクトに凝縮されている体験ということに気づいたんです。単発のイベントだけだとマインドを伝えきるのが難しいので、「TSUKUM Lab」という教室を始めようと考えています。プログラミングから始めて、動画制作、料理など、モノづくりの定義を広く捉えてコースを複数用意します。最終的にはコースをまたぎ、子どもたちがチームを組んでひとつのプロジェクトに挑むようにできたらなと。トライする好奇心とエラーする勇気を届けて、今日よりも明日が良くなっているよねと、ワクワクできるような人を増やしていきたい。それが人を育て、未来へ前進させることだと信じて、事業に取り組んでいます。
6名のプレゼンターによる発表の後は、グループに分かれ、終了時間ギリギリまで交流が行われました。
約10ヶ月ぶりの開催となったつぎにしですが、久しぶりの方も初めましての方も混ざり合い、これまで以上の熱気を帯びていたように思います。
そして熱さだけでなく、温かさがあるのが、つぎにしの良さ。様々なバックグラウンドを持つ方が集い、互いを尊重する。そして、それぞれが西陣への関わりを考えていく。きっとそんな空気こそが、この町を良くしていくのではないでしょうか。
次回、節目となる10回目のつぎにしでは、何か特別な動きがあるかも……とのこと。「つぎにし、まだかな?」と、今回以上の期待を高めて、続報を待ちましょう!
執筆:小黒恵太朗
編集:北川由依