人の魅力起点で仕事をする。 ご近所付き合いの延長線のようなものづくり

2021.11.24


気軽に旅行に行けなくなり、観光名所がその役割を果たしづらい時代に突入しつつある昨今。だからこそ、地域がもつ多彩な魅力・資源・地域力等を見える化することが必要とされはじめています。そのために欠かせないのは、「そこにいる人」なのだと思います。

今回は「アフリカドックス」を運営する中須俊治さん(以下:中須)と「naeclose」を運営する西紗苗さん(以下:西)に対談していただきました。

お二人とも、路地を囲むようにつながっていた7棟の長屋を改装し、江戸の町並みを再現した施設「西陣ろおじ」にてショップを運営する同士。西陣との関わり、事業、次なるビジョンと「西陣ろおじ」からつくりたい未来まで。2人のトークは縦横無尽に広がります。

中須俊治さん(アフリカドッグス代表)
バンカー時代に出会った友禅の職人さんとの出会いをきっかけに、アフリカドッグスを立ち上げる。アフリカでラジオ局の仕事をしていた経験をかけ合わせ、エウェ族と京都の職人の染色を重ねて商品を開発したり、染体験のイベントをしたりする中で「西陣ろおじ」には仕立て屋としての店舗をオープン。

西紗苗さん(naeclose店主)
京都の素材を使ったり、職人さんとコラボレーションをしたりしてアクセサリーを作っている。naecloseの店舗には教室兼カフェスペースも併設されている。制作には、世界を歩き出会った素材、日本の伝統工芸素材などを使用していて、代表的な使用素材には、オリジナルの組紐”ブレードワイヤー”、イタリア製の”フリーメタリコ”などがある。2008年から10年間は富小路三条でショップを運営していたが、2019年3月からは「西陣ろおじ」にて店舗をオープン。

昔ながらのご近所付き合い

中須:しっかりとお話するようになったのは僕がここに来た時なので、1年前くらいですよね。ちょうど、この「西陣ろおじ」にお店をオープンしたのが2020年11月なので。

西:もう1年になりますか。私はここにお店を移して2年半くらいかな。

中須:西さんには本当にお世話になっているんですよ。お店の什器はほとんど西さんからもらったものですもんね。

西:そうかも(笑)。でも、この棚は中須さんのお店に合いそうやなとか、アフリカっぽいなとか思ったら渡しちゃいますし……。けれど、そういう温かいご近所付き合いができるのも西陣のいいところのひとつだと思っています。

中須:ほんまにそうなんですよ。西さんには什器をいただいただけじゃなくて、百貨店のポップアップに出店するときの展示の相談をさせてもらったりもしてて。おんぶにだっこ、みたいな状態ですよ。

西:でもそういう付き合いをしたくてここに来たっていうのもありますからね。おばあちゃんちに帰ってきた、みたいな感覚になれるお店づくりを目指しています。

中須:僕はそのおばあちゃんち、という感覚をまさに持って、お世話になっているわけだ(笑)。そういえば、どういう経緯で「西陣ろおじ」にお店を構えることになったんでしたっけ?

西:私はもともと2008年から10年ほど、富小路三条でお店をしていたんです。すごく小さいお店だったんですけど、海外のパーツを使ったり、京都にいるいろんな職人さんとコラボしたり、百貨店出店のお話も結構いただいて。職人さんって本当に魅力的なんですっていうのを熱く語るうちに、「じゃあ職人さんも呼んでイベントしましょう!」みたいな話も増えて。気づいたらイベントと打ち合わせの日々で私はお店にいてませんでした。

やりがいもあり毎日飛びまわっていましたが、自分の体力を過信していたようで、ある日倒れてしまって……。一週間入院することになったんです。その時に最初に出てきた言葉が「仕事が!」だったでんですよ。今考えたらおかしいですよ(笑)。でも、いざ一週間休んでみると、すごく穏やかな気持ちになりました。仕事ももちろん楽しかったけど、もともと私がアクセサリーを作っているのって職人さんの凄さを伝えたいのはもちろん、買ってくれるお客さんの笑顔が好きやなとか、アクセサリーを見に来てくれるお客さんにお店でゆっくりしてほしいとか、いろいろあったんです。それで、ちょっとゆっくり仕事をしていこうかなという気持ちになり、ベッドの上で空き店舗を探していた時に出会ったのが「ろおじ」なんです。

中須:たしかに、ゆっくりっていうのは僕も感じています。「ろおじ」ってバスに乗らないと来れないようなところじゃないですか。わざわざ来てもらわなあかんというか。そうなると、一人あたりの時間がめっちゃ長くなるんですよ。一時間なんて短くて、普通に三時間くらいしゃべるんですよね。そうすると、お客さんから友達になって、友達に商品売れへんやん!って思うこともある(笑)。けれど、その分濃い関係を築けていると思います。

西:あるある。けど、その分相手の方もなんかくれたりしません?

中須:そうそう!西さんが余ったフルーツくれる、みたいな感じで(笑)。

西:うちにもそういうお客さんおられます。

中須:街中やと結構ドライで、お金払ったらそれで終わってしまうところを、物々交換でつづけていくようなところがある。そういうのが普通に成り立っているのも、職人の町だからかもしれないですよね。分業してるみたいな感じで、あれやってもらったから、これ僕がしますね、みたいな。

西:たしかに。この物件めっちゃいいなと思ってきたら、たまたま西陣だった、っていうだけですけど、普通に住んでいる人の中に面白い人がたくさんいて、職人さんが普通の家にそっと暮らしているっていう住居と商店がいい具合に混在している町だと思います。

職人さんとの距離が近い場所

西:私たち、職人さんありきでお仕事をしているという点で、すごく似ていますよね。

中須:たしかに。「職人さんの手づくり」っていうコピーはよくありますけど、手づくりかどうかだけじゃなくて、そこに職人さんの手が入ったという事実があるだけで最強だと思っていて。あえて無駄なことを、というと大げさかもしれないですが、合理的じゃないことって結構あって。生産性を考えると機械を使ったほうがいいこともあるけど、あえて無駄なことをできる贅沢さがあるじゃないですか。

西:無駄とマイナスなイメージかもしれないですが、わかります。これは違うなっていう感覚に落とし込むときに必要なものなのかな。

中須:そうそう。スピードを上げてたくさんつくっても、精神すり減らしてたら意味ないと思います。例えば、僕は「ゆとり世代」だからなんも悪いことしてへんのに、「ゆとりや!」って大人に悪い意味で言われることが結構あって。だからこそレールみたいなものから外れないように大学行って、福利厚生の整ったところに入って……という感じで生きてきました。でも、職人さんの世界って「とりあえずやってみる」ことも多いのでたくさん失敗するんです。それを「安定して失敗する」って職人さんは言うんですけど、経験と組み合わせながら見たことのないものを無駄に見える作業の中からつくり出して、それがパリに出たりする。その姿を見ていると生き方からも学ぶところがあります。

西:生き方もそうですけど、仕事でコラボするときに大事にしていることは「人ありき」なんですよね。たまたま出会って親しくなった人が、たまたま職人さんだった。じゃあ、その人と何ができるかな?と考える。職人さんだからというより、人間性に惹かれるのが最初です。

中須:すごくわかります。正直なこと言うと、前職のこともあって、結局お客さんから求められなかったら失われても仕方ないんじゃないかって思う気持ちも若干残っています。けど、儲かる儲からないの軸だけでなくなってしまうのは寂しいんですよね。

そもそも僕らが生活していて、例えば恋とかもすると思うんですけど、それって儲かることではないでしょ。なのに仕事になった途端に二元論で語られるのは、面白くないなって。いろいろなことが交差して生活が成り立っているように、仕事もそうであってほしいからこそ、最後の悪あがきをしたいと思っちゃいますね。

西:知ってほしい、っていう気持ちが同じかな。もちろん各地に素敵な職人さんはいると思うんですが、西陣って近所に普通にすごい人いません?

中須:めっちゃいます(笑)。

西:普段はお酒をたくさん飲むようなおじさんが、仕事場に行くとものすごくかっこよくて。別にすごいことじゃないけどな、って言いながらすごいことをやってのけるんですよ。見る人によってはただの雑多な空間だと思うかもしれないけど、私にとってはそれがベルサイユ宮殿みたいに見える。京都って長い歴史があるけれど、そういう当たり前を続けてきた一人ひとりの職人さんがいるからこそ、今の京都があるっていうことを少しでも私きっかけで知ってもらえたらいいな。

地元が京都じゃない人も参加できる場所

中須:西陣は職人さんも多いし、京都の中でも歴史が長いからできることってたくさんありそうですよね。

西:学校の授業にも組み込んでほしいな。漆塗りや仏像彫りをしましょう、みたいな(笑)。1年じゃなくて6年かけて。これからを考えたら西陣って近くに職人さんがいるのに、住んでいても知らない人って結構いる。もったいなくないですか?

中須:もったいない。長い期間かけてなにかをつくることの楽しさと難しさ、何より面白さをいろんな人に知ってほしいですし、西陣はその道のプロが一番近くにいる町といっても良い気がします。教育の課程に入れるっていうのは面白そうですね。

西:学生の時に知りたかったなって思うことが結構あるんです。糸巻きの機械がカシャカシャ音を立ててる様子とか、子供の頃に見たかった!大人になった今、必死に探している感覚もあるので、小さい頃から身近に体験できたらもっといいなと思います。

中須:教育でいうと、僕は本当に西陣に来てから学ぶことが多いです。例えば「表具師」さんっているんですけど、最初は聞いたこともなくて。ふすまや障子の和紙の部分を張り替えたり修復したりする人のことなんですけど、長く使うことを前提にしてその仕事があるんですね。今の時代的にも大事な精神だと思います。昔からつづいていることから学ぶことってたくさんあるし、そういうのに西陣に来たからこそたくさん出会っているような気はしています。

西:学びは本当に多いですね。あと、私は地蔵盆をしたいです。

中須:地蔵盆!いいですね。

西:もともと地蔵盆っていう文化を知らなかったんですよ。関西圏の文化みたいですが、あれって、地域によって違うじゃないですか。

中須:そうなんですか?

西:そうみたいですよ。地蔵盆っていわゆる地域のお祭じゃないですか。地方から来た人ってそんなの知らないから、誰でも来れる地域の地蔵盆をここでできたら嬉しいなって思っています。例えば西陣ろおじのお地蔵さんをアフリカにまつわるものを着飾っても面白いんじゃないかな?

中須:やってみたい!ポップな感じに飾り付けできますよ!

西:楽しそう!この場所自体がもともとマンションになる話もある中、こうして「ろおじ」になったという経緯もあると聞いているので、中庭というか路地裏にいるお地蔵さんも寂しかったと思うんですよ(笑)。周りにも子どもが増えてきたし、地域だけじゃなくていろんなところから来れる地蔵盆ができたら。それこそ大人も参加できるようにしてね。職人さんを呼んで体験イベントを一緒にやるオリジナル地蔵盆ができそう。本来のものとは少し違うので、地蔵フェスティバルとかにしますか?

中須:フェスみたいでいいかも(笑)。地蔵盆ってどういうものなのか、っていう説明はしつつ、気軽に体験できることを用意したりしてね。やっぱり、体感してもらうものが一番やと思ってるんで、僕たちならではの地蔵盆っていうのは、「ろおじ」でできる体験イベントとしていい形かもしれないですね。

西:体験イベントって今はいろんなところでやっていますが、もっと敷居が低くて、新しい何かを体験できるようなイベントをやれたらいいですし、この西陣という地域で、「ろおじ」でならやれると思っています。

中須:職人さんとの距離が近い西陣だからこその強みを、これからも事業ではもちろんイベントや、この「ろおじ」という場所を生かして長期的に築いていきたいです。

執筆:高橋奈々
編集:北川由依


記事一覧に戻る

CONTACTお問い合わせはこちらから