認知症から考える、だれもが安心して暮らせる町づくり。 地域を巻き込む、チームの力とその広がり

2022.03.14


いつまでも、住み続けたい町。その条件のひとつには、きっと地域の人との温かなつながりも含まれるのではないでしょうか。必要とされたり、ときには誰かを頼ったり。そういった積み重ねの中で、人は自分の役割を見つけていくのだと思います。

今回は石﨑立矢さん(以下:石﨑)と、橋本千恵さん(以下:橋本)に対談をしていただきました。

お二人が所属している「チーム上京!」は、認知症の方との関わりから、誰もが安心して暮らしていける町を考え、その実現に向けたまちづくりを進めていグループです。活動がスタートしたのは、2021年6月。同年12月には、その活動内容が認められ、NHK厚生文化事業団の第5回『認知症とともに生きるまち大賞』を受賞しました。

この町を舞台に様々なつながりを生んでいく「チーム上京!」の物語は、一人の認知症当事者・安達春雄さんとの出会いから動き始めます。

石﨑立矢さん
地元新聞社に勤める傍ら、まちの動きや関心事、情報を一覧共有したいという想いから「上京朝カフェ」「上京ちず部」などを主宰。ローカルメディア・場の運営・地図などのツールを生かし、様々な活動に取り組んでいる。

※「上京朝カフェ」
毎月第四木曜日の朝8時15分から上京区役所等で開催されている「上京のまち」、「つながること」に関心のある方が誰でも参加できる場。約20~30人が毎月参加し、自身の活動を紹介するとともに、出席者との交流を深めている。

※「上京ちず部」
上京区を拠点に、地図を活用したイベントやまちあるき、ワークショップなどを開催している。

橋本千恵さん
社会福祉士・京都市認知症介護指導者。高齢者介護に携わり20年。年齢を重ねても楽しく、地域の中で暮らし続けることができるように様々な活動を通して地域とのつながりづくりを呼びかけている。

はじまりは、堀川会議室から

石﨑:僕たちが活動を始めたきっかけは、安達春雄さんという、認知症当事者の存在でした。初めに「やりましょう!」と呼びかけてくれたのは、橋本さんでしたね。

橋本:私はもともと認知症の方と関わる仕事をしていて、安達さんとはその中で関わるようになりました。安達さんは、これまでずっと会社の社長としてバリバリ活躍されてきた方なんですよね。

石﨑:ただ認知症になって、コロナ禍も重なって、「地域の中で、もっと人とつながっていきたい」という想いを持たれるようになって。

橋本:そこで私が安達さんの想いを実現したいなと、地域活動に取り組んでいる皆さんに声をかけてみたんですよね。2021年6月28日、ここ堀川会議室で、最初のミーティングを行いました。

石﨑:僕は橋本さんと違って、認知症に対する専門的な知識はありません。でも、これまで「上京朝カフェ」や「上京ちず部」などに取り組んできていたのでこの活動を地域の皆さんと共有して、広げていくことが僕の役割なのかなと感じていました。

橋本:石﨑さん、正直あのミーティングのこと、どう思って参加されたんですか?安達さんの話を、ただ聞いてみようっていう趣旨だったじゃないですか。

石﨑:なんか動き出しそうやなって、最初から思っていましたよ。実際、安達さんが使わなくなった玄関前のガレージを開放して活用してみようとか、そこにコーヒーサロンをやっている「珈琲男団」さんを呼ぼうとか、どんどん話が膨らんで楽しかったですよね。その場でFacebookメッセンジャーでやり取りをして、ミーティングの翌週の7月6日には、もう最初のイベントが実現しましたし。

橋本:最初はミーティングを開催できただけで、良かったと思っていたんですよ。認知症の方も、専門職の方も、地域の方も、みんなが同じ立場で話す場を設けられたことが、十分仕事の成果でしたし。だから、そこからこんなに活動が広がっていくなんて、正直考えていませんでした。

石﨑:子どもたちと遊んだり、スポーツをしてみたり。月に1、2回のペースで、途切れることなく活動が続いていますよね。メンバーのみんなが、「あの人と組んだら、こんなことできるな」っていうネタをそれぞれ持っていて。そして、まわりも快く共有してくださるから、それが一つ一つ実現していっている感じ。企画も当番制じゃなくて、挙手制というか。みんなフラットなんですよ。

橋本:この前も言われたんです。「毎回イベント企画するのって大変じゃない?」って。でも、あんまり考えていませんので(笑)あれこれ計画して、成果だけを目指していくと、うまくいかなかったときに辛いですしね。「こんなことやるんだけど、この日来れる?」みたいな感じ。終わった後は、Facebookに楽しかったことを載せてみたり、誰かに話してみたりとか。

石﨑:だから、続けていても全然しんどくないんですよ。僕らだけがメインで活動しているんじゃなくて、出会いの中から勝手に活動が起きているみたいな。10月だって、安達さんが散歩していたら子どもたちと会って、いつの間にか一緒にハロウィンのフラワーアレンジメントをやっていましたし。

橋本:人が繋がると、思いがけないことが起きるんなあっていう、驚きの連続ですよね。活動のきっかけは安達さんだけど、その安達さんもチームの一員になって、上京の町を巻き込んでいく。だから「チーム安達」じゃなくて、「チーム上京!」なんです。

石﨑:そういえば、「!」は、なんで付けたんでしたっけ?

橋本:楽しさですよ、楽しさ!

誰もがいつか、当事者になる

橋本:活動の中で、安達さんはどんどん元気になっているじゃないですか。近所の方との付き合いが増えたり、自分の役割を果たす環境があったりするだけで、人ってこんなに輝けるんだって思いました。病気は確実に進行しているけれど、話す言葉や意欲が全然違う。

石﨑:いつも、名言を残してくれますよね。「当たり前の中に落とし穴がある」とか。

橋本:この前は、「活動は未来を見つめること」って言っていました。安達さん、認知症になってから、先を考えても悪いことしか浮かばなくなってしまったんですって。でも、活動を通して、楽しみな予定が増えたって。来週はこれがある、来月はあのイベントがある。そんな様子を、奥様も凄く良いって言ってくれて。それを聞いて安達さん、「未来を見つめること」っていう名言を。

石﨑:何かを残していきたい、考えを伝えたいっていう思いがすごくある方なんですよね。この前、得意なことを聞いたときに、「書道」と答えられたんです。字を書くのが上手くて、手帳もすごいんですよ。いつどこで何をしたっていう記録が、昔のものからずっと記録してあって。認知症と診断された後も、今の自分の状態とか、コロナ禍で関心がある話題とかを、全部書き留めていたんですよね。

ただ最近は症状が進んで、字が書きにくくなってしまって。そこでみんなで、字を書くというよりは、何かを記録して伝えたいんですよねって話し合ったんです。メンバーの1人がスマホの音声入力を教えてあげたら、安達さんの目がキラキラ輝いたんですよ。

橋本:最初は安達さん症状が重度で、奥様も介護で疲れ切っていると聞いていたんです。だから、実際に活動を始めて驚きました。身体の不自由さをしっかり話した上で、それでもやりたいことがあるって、自分自身の言葉で想いを伝えられていて……。先入観だけで相手を見てしまってはいけないって、教わった気がしました。

橋本:そして、最初のミーティングで感動したことがあるんです。それは、安達さんと石﨑さんが、普通のおっちゃん同士の会話をしていたこと。私は石﨑さんと反対で、これまで専門職の肩書きを通してしか、認知症の方と関わったことがなくって。どうしても支援される人・助けてあげる人という立場で考えてしまっていたんです。だから、「どこ生まれなん?めっちゃ地元やん!」みたいに、2人が対等に話している姿が新鮮だったんですよ。

石﨑:大人は「認知症の安達さん」と思ってしまうかもしれない。でも、町の子どもたちは「近所の優しい穏やかなおっちゃん」として見てくれていますよね。

橋本:そうなんです。あと、全国にいる認知症の方の人数って、小学生より多いんですよ。小学生は町中にいっぱいいるけれど、認知症の方とはほとんど出会わないなと感じると思うんです。でも、実際は毎日きっとどこかですれ違っているはずで。

石﨑:もしかしたら、重度の症状のイメージだけが、ひとり歩きしているのかもしれない。

橋本:症状が分からないから、怖い。怖いから見ないようにして、いつの間にか地域の輪から外してしまう……。そんな循環が生まれているのだとしたら、すごく悲しいですよね。

石﨑:僕はこの前、車椅子の体験をしてみたんですけれど、子どもたちも含めてみんなでやれたら良いなと思ったんですよ。もしかしたら、今日の帰り道に事故にあってしまうかもしれない。明日から急に、介護や支援が必要になる可能性があるんですよね。

橋本:誰でもいつか、何かしらの当事者になるんですよ。何もしなくても、歳はどんどんとっていきますし。

石﨑:私たちとはまた別の話なんですけれど、町にベンチを置く「ベンチ置くだけプロジェクト(略して、置きベン)」をしている方が上京にいるじゃないですか。ベンチに腰掛けた人同士で、自然と対話が生まれたら良いなという想いで頑張っていらっしゃって。

橋本:安達さんが、家からバス停まで歩くのがちょっとしんどくなってきて。途中にベンチでもあったら、休憩できて無理なく移動できるねって話していたら、その方を紹介いただいたんですよね。

石﨑:そして次の日くらいには、立派なベンチを用意してくださったんですよ。安達さんの家から堀川商店街にでる間に、既に2脚も設置されているんです。

橋本:安達さんだけの困りごとだと思っていたけれど、それを解決しようとしたら、町のみんなが楽に暮らせるようになるんだなあって。脚を怪我している方とか、妊婦さんとか、ベンチがあったら絶対便利ですからね。

石﨑:「チーム上京!」もそうで、安達さんのために始まった活動でも、きっと町全体のことに繋がっているんだなと思うんです。そしてそれは、巡り巡って自分たちの生活にも直接影響してくるんですよね。

橋本:そう、そこなんです。自分のこれからを考えたとき、やっぱり人との関係性や助け合いがしっかりとできている中で、年老いていきたいなって思うんですよ。だから、みんな仕事と関係なくても、一生懸命やっているところがあるのかもしれないですね。

一緒に、地域の一員になる

橋本:「チーム上京!」のことをまわりに言うと、「なんで上京で、そんなことができたの?」って驚かれることも多いんです。昔ながらのイメージが強いから、新しい取り組みをしても嫌がられるんじゃないのって。でも、実際に活動を始めてみると、全然違いますよね。町内の皆さんも受け入れてくださるし、その助けがあったからこそ、活動が続けられていると思うんです。

石﨑:安達さん自身の人望も大きいですよね。きっと安達さんご夫婦が、昔からすごく地域に貢献されて、信頼を紡いできたんだと思います。そういう意味でも、上京の方ってお互いのやっていることを良く見ていますよね。町の中に色んな人がいて、すぐに動ける人が見つかって、すぐその人と組めるっていうのも、すごく上京らしいと思います。

橋本:頼られたら、すごく親身になってくださいますよね。ただ、皆さんそれぞれの場所で活動されているじゃないですか。同じ目的で頑張っている人同士でも、これまでなかなか繋がる機会がなかったのが少し残念だったんですよ。みんなの力が合わされば、きっと、もっと色んなことができるのにって。そのハブみたいな存在に、「チーム上京!」がなれたらすごく嬉しいですよね。

石﨑:力を合わせるとき、無理に今の方針や活動内容を変えなくても良いんですよね。それぞれが、こだわりを持っていると思いますし。お互いの様子を見ながら、ちょっとずつ関わっていけたらなと。

僕は、やっていることに区別がないんですよ。「上京朝カフェ」と「上京ちず部」と「チーム上京!」別々に取り組んでいるんじゃなくて、目指すところは全部一緒。町の中にどんな人がいるかな、何をやろうとしているのかなっていうことを知って結びつけていきたいんです。

橋本:まずは顔見知りになるだけでも、次のつながりが1年後に生まれてくるかもしれませんからね。

私は、チーム上京!には確かな目的があると思っています。それは、認知症の方が当たり前に自分の意思を発信できて、お互いに助け合いながら、町の中で暮らし続けられるようにすること。安達さんのように症状が進んだ方でも、自分の役割を見つけることで、こんなに楽しそうに生活できるんだって伝えていきたいんです。

そして、まわりの頑張っている人たちだけで、困っている人たちをなんとかしてあげようっていうんじゃなくって、一緒に地域の一員になって、考えていく。そんなことができるようになると、困りごとの視点が変わってくるし、助け方も変わってくると思うんですよね。

石﨑:僕らの活動って、地域団体でもないし、法人格を持っているわけでもない。お金になっているわけでもない。それでもなんで続けていられるかと言えば、とにかく楽しさがあるから。

僕たちも安達さんとの関わりを経験した上で、また他の人たちとも関わりつつあります。チームのメンバーも、増えるかもしれないし、入れ替わるかもしれない。それは成り行きに任せて、これからもこの町で、楽しんで活動を続けていきたいですね。

執筆:小黒恵太朗
編集:北川由依


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