観光客も、地元の人も。 行き来を生み、交わりをつくる仕掛け

2022.08.17


「いつもの京を、特別な今日に。」をコンセプトに掲げ、京都に訪れる人を迎える「KéFU stay&lounge(以下、KéFU )」。宿泊者と京都をつなぐゲストハウスだけでなく、宿のある西陣エリアの魅力を発信すると共に、地域のご近所さんも集う場です。

1階のラウンジの壁には、大きな西陣の地図が描かれており、そこにはいくつもの銭湯がピン留めされています。そのうちの一つが、「源湯(みなもとゆ)」。源湯は、サウナの梅湯で知られる「ゆとなみ社」の営む銭湯の一つです。源湯の番台前にも、手作りの地図が貼ってあり、スタッフおすすめの飲食店がずらりとピン留めされています。

KéFUのラウンジにある大きな地図(提供:KéFU)

源湯にも周辺MAPが貼られている

観光客が訪れるKéFUと地元の人が足繁く通う源湯。その両方をつなぐユニークな取り組みが始まっています。今回は、KéFU のマネージャー横山恵(以下、横山)さんと、源湯の店長を務める鈴木 伸左衛門(しんざえもん)さん(以下、鈴木)に対談していただき、コラボレーションの経緯や西陣のまちについて伺いました。

横山恵さん
KéFUのマネージャーとして宿泊業務だけでなく、西陣を深く知るためのイベントやワークショップの企画、さらには同じ西陣にもう一軒あるゲストハウス「ORI stay & living」の運営も担当。西陣にまつわる人々によるローカルメディア「osanote」を立ち上げ、運営に携わる。

鈴木 伸左衛門さん
ゆとなみ社が手掛けた2つ目の銭湯、大津市にある「都湯」でスタッフとして働いたのち、源湯の店長に就任。3階建ての建物内には、ギャラリー「氵(さんずい)」や、古着や雑貨などを扱う「あきよし堂」などのユニークなテナントも入る複合施設。足つぼマッサージや野菜の販売、浴室ライブなど、銭湯の幅を超えた様々なイベントを開催。

宿泊施設×銭湯=生まれるものは?

横山 :以前から宿泊するお客さまに「おすすめの銭湯は?」と聞かれることもあって、よくよく調べてみたら船岡温泉や松葉湯など、周囲に銭湯が多かったんです。銭湯好きのスタッフもいたので、宿泊プランをつくったら面白そうだねと盛り上がり、「銭湯プラン」を作りました。京都市共通の入浴券、シャンプーセット、KéFUオリジナル銭湯タオル、オリジナル銭湯ZINEがセットになっています。

ラタンのカゴ(貸出)に入れて、持ち運ぶこともできます。

鈴木:僕らも番台でカゴをお持ちの方を見ると、『あ、KéFUから来た方なんだな』と気づきますよ。

横山:ありがとうございます(笑)。ただプランをつくるだけではなくて、もっと地域の銭湯とコラボレーションをして面白い取り組みができないかなと考えて、源湯さんにコラボレーション企画を提案しました。それが「コーヒー湯」。銭湯プランの実施期間中(2022年5月〜6月)に、KéFUのオリジナルコーヒーを使用した「コーヒー湯」とクッキーなどのKéFUオリジナルグッズを出張販売するイベントを2度開催させていただきました。

鈴木:以前から「ワイン湯」や「酒粕湯」なども行っていたので、これは面白そうだなと思って、コラボレーションを快諾しました。常連のお客様からも「いい香りだったよ」とお声がけをいただきましたね。ただ、初めの2時間ぐらいはいい香りがするんですけど、閉店に近づくにつれて香りがとんでしまうので、コーヒーの分量などの調整は必要かな。西陣のコーヒー屋さんが来てくれたんですが、プロからはあまりよい評価をいただけませんでしたね(笑)。

横山:源湯には広いくつろぎスペースがあるので、そこでお風呂上がりにアイスコーヒーを振舞ったり、物販をしたり。源湯の常連さんにも、KéFUを知っていただくきっかけになりましたね。

鈴木:うちからも、「銭湯お掃除体験(※)」を提案させていただきました。もっと銭湯文化に触れてもらおうということで、源湯では定期的にスタッフと一緒に風呂掃除をして、一緒にお昼を食べるというイベントを開催しています。それを旅行者の方にも体験していただけたら面白いんじゃないかと思って。
※KéFUの「銭湯プラン」のオプションでつけることができます。

(提供:KéFU)

横山:銭湯を通じて地域と触れ合うことで、観光では体験できないことを楽しんでもらえるかなと思っています。今秋にも銭湯プランを開始する予定なので、源湯さん以外の銭湯ともコラボレーションするなど、KéFUをハブにして、もっと西陣エリアの銭湯へ足を運んでもらうきっかけがつくれたらいいですね。

まちに住む人の目線で発信する

鈴木:KéFUは、源湯以外にも地域の産業や西陣エリアのお店ともコラボレーションしていますよね。横山さんの周囲を巻き込む力はすごいと思います。

横山:せっかく西陣にあるので、KéFUを地域の産業だったり、伝統文化を伝えられたりする場所にもしていけたらいいなと考えていて。西陣織工業組合から織り機をお借りして、手機(ており)体験を行ったり、帯を使って装飾品をつくるワークショップを開催したりしています。

鈴木:伝統文化とのコラボレーションは、ハードルが高そうなイメージがあります。どのようにつながりをつくっていったんですか?

横山:京都市から取材をされた時に、「KéFUで機織り体験ができるようにしたい」とお話をしたら、西陣織工業組合の方を紹介してくださって。最初はめっちゃ緊張したんですけど、すごく良い方で、快諾してくださったんです。それまでにも、西陣織会館で行われた西陣麦酒さん主催のビアガーデンや、七夕祭りなどにKéFUが出店したのを覚えてくださったみたいで。

(提供:KéFU)

鈴木:地域のイベントに顔を出し、知り合いの方からつながっていく。京都らしいつながり方でコラボレーションが生まれてるんですね。

横山 :そうですね。先日は、金襴(金箔を巻きつけた金糸)を桂機織業さんから譲り受けて、冊子の糸綴じ体験を開催しました。この冊子というのが私たちが発行しているフリーペーパー「osanote(オサノート)」で、西陣で暮らす人たちの生業や想いなどを取材し、西陣エリアの魅力を内外に発信しています。

金襴を使って糸綴じをしていただき、それを持ち帰って読んでもらう体験から、地域の産業に触れてもらえないだろうかと、フリーペーパー編集長がこだわりを持って設計してくれました。

(提供:KéFU)

鈴木:osanoteは、WEBでも展開しているんですよね。そもそも、なぜローカルメディアを始められたんですか。

横山:まずは西陣というエリアの魅力を知ってもらって、結果的にKéFUを知ってもらえるような導線ができたらいいなと思いメディアを始めたんです。観光やグルメ情報は、他のサイトにも載ってるので、私たちは地域に住んでる人ならではの目線を大切にした情報を発信してます。例えば、Webでは西陣の食材を使ったレシピや、地域の酒屋さんがお勧めする地ビールのコラム記事などを連載しています。

それはKéFUのコンセプト「このまちの人の日常が誰かの特別になるかもしれない」ということに繋がる部分ですね。それともう一つ、西陣に住んでる人も気づいてない魅力を再発見するきっかけがつくれたらいいなという想いがあります。

鈴木:なるほど!osanoteを発行して、反響はありましたか?

横山:「掲載しているお店に行ったよ!」、「こういうお店あったんだ」という声もいただきました。 今後は、西陣の企業と一緒に商品を作ってみたいなと考えています。どんな商品にするかはまだ何も決まっていないのですが、せっかくだったらKéFUで使えるものがいいかな。制作過程も、osanoteで紹介していきたいですね。

西陣に関わる人を増やしていく

横山:西陣って外から見ると、敷居が高いと思われがちな地域なのですが、中に入ってみるとすごくウェルカムなんです。私たちのように外からやってきて新しく事業を始められている方もたくさんいるし、地域の事業者さんも快く応援してくれる。チャレンジしやすい場所です。だから今後は、自分たちが西陣の人と一緒に商品やプロジェクトを作る過程を発信することで、関わりを持ちやすいまちだということを伝えたいと思っています。

それは私自身が、西陣の人とつながって、どんどんまちの印象が変わったというか。同じような経験を他の人にもしてもらいたいなっていう想いが強いですね。鈴木さんも、まちとつながるために大切にしていることはありますか?

鈴木: やはり銭湯はご近所の方にとっては生活の一つの要素なので、まずは地元の方と関係性を作らないと成り立たないんですよね。とはいえ、銭湯の常連さんが占領したりしないように声がけをするようにしています。その関係性を成り立たせた上で、観光客の方も引き込んでいかねばと。

 

横山:行き慣れていないと、銭湯に行くのってハードルがあるという声を聞きます。常連さんがいると入りづらいとか、その場所特有のルールがあったり。シャンプーを持っていかなきゃだめだとか。そういうハードルを下げるためにも、銭湯セットを販売できたらという考えもあって。スタッフの中には銭湯好きの子も多いですし、周囲の銭湯をめぐって取材もしているので、銭湯の良さをKéFUからもお伝えできたらなと思っています。

鈴木:地域との付き合いはなかなか一筋縄では行かないこともあり、悩むことも多いです。だけど、少しつでも関係性を築けるように、近隣のお店には足を運ぶようにしています。特に地元の人が集うような渋めの飲食店へ行って「お風呂屋さんです」と挨拶すると、「そうか、今度行くわ」って言ってくださる方もいらっしゃるんです。地道ですが、地元の人とのコミュニケーションが大事かなと。

番台に立っていることが多く、なかなかお店の外に出て集まりに顔を出したりする機会は少ないので、横山さんのように巻き込んでくださる方がいると嬉しいですね。持ち込み企画は大歓迎です!

横山:今後、源湯さんで何かやっていきたい取り組みはありますか?

鈴木:ゆくゆくは源湯のそばを流れる天神川沿いでお祭りをやりたいです。屋台がずらっと並ぶようなお祭り。

横山 :いいですね!そのお祭りにはぜひ、KéFUも参加させてもらいたいと思います。

執筆:ミカミユカリ
編集:北川由依


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