西陣で何かするって、実際どう? 外から見る西陣、内から見る西陣

2022.10.20


西陣という地域に関わっているのはどんな人でしょうか?昔から住んでいる人、そこで古くから商売を営んでいる人、職人さんやその取引先……。ずっと前から住んでいる人たちはもちろん、西陣の外から新しくここに関わる人もたくさんいらっしゃいます。

今回は「新たに外から西陣に関わること」について、ソニーコンピュータサイエンス研究所京都研究室の竹内雄一郎さん(以下、竹内)と、京都産業大学現代社会学科准教授の木原麻子さん(以下、木原)にお聞きしました。

片やテクノロジー、片やキャリア開発と、一見まったく違うことを専門にされていますが、その交点は西陣にありました。それぞれ違ったアプローチでまちづくりや地域創生に関わってきたお二人が西陣で仕掛けること、そして西陣を見る視点とは。

竹内雄一郎さん
計算機科学者。株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 京都研究室研究員、および一般社団法人ウィキトピア・インスティテュート代表理事。情報工学と建築・都市デザインの境界領域の研究に従事。

木原麻子さん
大学院を卒業後京都府に入庁。その後民間のベンチャー企業支援会社に転職し、産学連携プロジェクトや多くのベンチャー・中小企業の相談業務を経て京都産業大学の現代社会学部現代社会学科の准教授に就任。キャリア開発、課題解決型授業実践(PBL)などを専門とする。

「“これは面白い”と思ったことを比較的自由にやっているのです」

竹内さん。「西陣connect」の活動拠点である上京区元大宮消防出張所にてお伺いしました

竹内:僕はまちづくりに興味があって、ソニーコンピュータサイエンス研究所(以下ソニーCSL)の活動の一つとして、西陣を舞台にワークショップをしています。

ソニーCSLは東京、京都のほかにパリ、ローマに拠点を抱えてるのですが、それぞれ特色が異なるのですよね。京都研究室の特色は、人や社会にとっての「ゆたかさ」の意味を問い直すという活動をすること。東京の拠点に所属する研究員には農園を実装したり、義足の研究をしている人もいます。

共通しているのは、「人類とこの惑星の未来のための研究」をテーマに、研究の枠組みを超えて自らが実際に行動し、現場へ飛び込みながら未来を切り開いていくことが重要視される点です。

だから短期的にお金になるかとか、他の部門と協業できるかとか、そういったことは一旦脇に置いておいて、うちの研究員が「これは可能性があるんじゃないか」「これは面白い」と思ったことが比較的自由にやれるのではないかと感じています。

「普段出会わないような人と出会って視野を広げたり」

木原さん

木原:私の専門はキャリア開発・キャリア形成です。徳島県の牟岐町という小さな海辺の町があるんですけど、そこで活動しておられる方とたまたま知り合う機会がありまして、その方が「おもしろいことをやっている徳島県の団体があるから、ゼミで何か一緒にやってみませんか?」と言ってくれたのがきっかけで、何年か前から京都と牟岐町を行ったり来たりさせていただいています。

学生がプロジェクトを通じて、自分たちが普段出会わないような地域の人、全然違う生き方をしている人、多様な人と出会って協働する中で、自分の将来のことを考えたり、視野を広げたりする機会になることを目的にしてゼミ活動をしています。

牟岐町のみなさんにもすごく喜んでもらっているみたいです。地元だけで消費していた柚子が京都のお菓子屋さんで使われたり京都の人に楽しんでもらえたりするようになり、町に誇りを持つ人が増えたそうです。嬉しいですね。

「ででで」とはハードルを下げる試みの名前

竹内:お互い西陣をフィールドに活動していますが、お会いするのは今日が初めてですね。よろしくお願いします!

木原:こちらこそよろしくお願いします。竹内さんはソニーCSLの活動の一環としてまちづくりプロジェクトをされてるとのことなんですが、どういったものなんですか?

竹内:僕はここ西陣で「ででで」というプロジェクトをやっています。「ででで」というのは「ええで」「あかんで」「なんで」の最後の文字をとったところから名付けたものです。みんなでまちを歩いていて、「これはいいな」「これはダメだな」「いいとかダメというか、これはなんだろう?」と思ったところを写真に撮ってweb上でシェアして、ああだこうだコメントしてもらう、一種のまち歩きに特化したソーシャルメディアを作ってみようというものです。

「ででで」のワークショップ時の資料(写真提供:竹内雄一郎)

竹内:外から移住してきた方や若い方だとそういった地域のコミュニティやまちづくりに参加するハードルが高いと思うのですが、「ででで」は意見を交換するための単純なシステム。まちについて意見をかわしあうことへのハードルを、親しみやすく、なおかつ敷居が低い、ソーシャルメディア的なものを持ち込むことで下げて、入口を提供したいんです。

「ででで」の一環でまち歩きのワークショップをやると、人によって目をつけるところが違って面白かったですね。大学の先生が参加してくれた時は、素人がなかなか気付かないようなところ、例えばある場所を見て、「この部分はまちの防災的によくないね、もっとこうしたほうが良いと思う」みたいなところをプロの目線で言ってくださいました。「ええで」「なんで」は素人でも出やすいんですけど、「あかんで」は、何がどう駄目かがわからないと出しにくいので貴重な意見でしたね。

「ででで」のワークショップ時の風景(写真提供:竹内雄一郎)

竹内:プラットフォームを作るだけではなくて、そんなプロの視点をどうやって学べるか、おもしろかったり専門的だったりする視点をどうやって学習できるか、っていうことも考えています。そのへんの仕組みがないと浅い視点でまちを見てしまうので。

木原:確かに、西陣は本当にディープで、表面からは見えないことがたくさんある。このあたりは織屋さんがたくさんあるので、そういったことを解説してくれる水先案内人みたいな方がいると学生たちもこのまちの深さを感じられるのかな、とも思いますね。

徳島県牟岐町から京都・西陣へ

竹内:木原先生は徳島県牟岐町との関わりからプロジェクトを展開されていますが、どういう経緯で西陣で活動されるようになったのですか?

木原:どうしたら京都の学生目線で牟岐町に関わっていけるだろうかと考えていた矢先、コロナ禍のせいで現地になかなか行けなくなってしまったんです。そのなかでもできることを考えた時に、牟岐町の特産品を自分たちが活動している京都で知ってもらう活動をするというのも一つのあり方なんじゃない、と考え、ゼミでは月一回「西陣connect」が開催しているマルシェに出店しています。

マルシェへの出店の様子。木原ゼミInstagramより(写真提供:木原麻子)

例えば、種から18年かけて育てた木からしかとれない柚子の実を牟岐町に行ったときに絞らせてもらって、牟岐町の方が加工したものを学生が販売しています。ほかにも、甘味処の梅園さんで、ゼミの学生が昔アルバイトをしていた縁があったところから、社長さんに「一緒に何かやってみよう」と言っていただきまして、試作を重ねて、柚子果汁たっぷりの、白餡を使った葛汁粉を冬季限定で発売させていただきました。

梅園×牟岐町×木原ゼミのコラボ商品、「柚子と白餡の葛志るこ」。西陣にある店舗「うめぞの茶房」にて限定販売されました(写真提供:木原麻子)

木原:牟岐町の方々が自分たちの間だけで消費していた柚子が、京都のお菓子屋さんで使われたり京都の人に楽しんでもらえたり、ということで、牟岐町の方にすごく喜んでいただいているようです。

私は京都の人間ですが、いわゆる「洛外」の左京区出身で、「上中下(かみなかしも)」と呼ばれる上京区・中京区・下京区は洛中のディープな京都だという印象なんです。その中でも職人さんの多い西陣は、外から見ると近くて遠い場所で、呉服などの仕事がなければ関わることのない地域です。でも、学生は触媒として、どこでも受け入れてもらいやすい。そのおかげで西陣に接点を持たせていただけるのは嬉しいことですね。

これからやりたいことは「世界西陣化」?

木原:竹内さんは東京のほうから京都に来られたんですよね。西陣はどういった印象のまちですか?

竹内:西陣のまち中で水を張ったバケツを見ることがあるのですが、そういう風景を見ると防災に関しても自分達でやろう、という気持ちが見えてきますね。地域のコミュニティがしっかり機能しているんだろうな。当たり前のことではないので、西陣ならではの特色だと思います。

僕が興味のあるまちづくりは参加型のものです。初めてまちづくりに参加するときって心的なハードルを感じる人が多いですよね。まちについて意見を交わし合うことのハードルを「ででで」のようなソーシャルメディア的な考え方を取り入れたワークショップやテクノロジーを提供することで、ハードルを下げられないかと考えています。だから、西陣のように地域のコミュニティの力が残っているところを勉強させていただいて、他地域でも参加型のまちづくりを広げていくことができるんじゃないかなと思っています。

木原:まちづくりの中にテクノロジーの考え方を入れるところがソニーCSLさんらしいですね!

竹内:「ででで」のような情報系のプラットフォームのいいところは、公開してしまえば多言語対応にするだけで全世界に適応できるところです。なので、西陣で作って全世界に公開するっていうのがやりたいですね。「世界西陣化」、というか……(笑)

木原:「世界西陣化」ですか!(笑)

竹内:例えば、「地域の清掃活動をしましょう」とか、大規模なものだと「公園をみんなで作ろう」とか、そういったムーブメントがここ10~15年、サンフランシスコやニューヨークで盛り上がってきているんです。

新しい参加型まちづくりにおいて、従来型のアナログな動きにテクノロジーをプラスすることで、心理的・時間的ハードルを下げたり、より大規模な都市整備活動をしたりもしやすくなるんじゃないか、と思っています。「ででで」はそういった大きな流れをつくる最初のステップで、その先に参加型まちづくりの新しいかたちがあるのではないかと考え、日本でも実験していきたいと思っています。

コネクトする人の多いまちは楽しい

竹内:僕はまだ京都に住んだばかりなのでそれぞれのエリアの特徴がよくわかっていないんですが、木原先生から見ると西陣ってどんなまちですか?

木原:西陣って昔からおられる方はもちろんですが、起業された方や移住された方々も多くおられます。さらに、まちに人が居るだけでは有機的な繋がりって生まれなくて、どんな活動も間を取り持つ人がいないと展開していきませんが、西陣はそんな人たちも多く、自然とつながりが生まれるまちだなと感じています。

西陣は仕事として機織りをしながらその上に住むような「職住一体」のまちとしての姿がまだまだ残っています。生活圏と仕事圏が混然一体となっているまちだとつながりやすいのかな。昼間人口と夜間人口にあまり差がない、というのは京都の中でも西陣の特色だと思いますね。サラリーマンよりもご自宅で仕事をしている方の比率が多いと感じています。

竹内:最近だと「15 minute city(※)」なんていいますけど、まさにそれですよね。
※15 minute city:家から徒歩、あるいは自転車などで15分以内の距離で仕事や娯楽、買い物などの生活圏が完結するような都市、あるいはそういった都市計画のこと。パリ市長のアンヌ・イダルゴが2020年マニフェストとして掲げた。

木原:西陣はそこに住みながら商いをするっていうことに馴染みがある風土のかもしれないですね。西陣で活動しているとそういう方に出会えるので、こういう生き方もアリなんだってロールモデルを探すのにすごく良い場所なんじゃないかと思います。

サラリーマンしか出会ったことがないと、仕事のイメージも偏ってしまいがち。多様な生き方をしている方と出会わなければ、普通に就職活動をして、知っている会社を片っ端から受けて撃沈、サラリーマンになるのも難しいなあ…みたいなことになりがちです。でも西陣なら、地域に根差せばもっと柔軟な生き方もアリなんじゃないか、そう思わせてくれる方たちにたくさん出会えます。

外から見たらクローズドに見えるかもしれないけど、これをやる!と決めた人に対してはすごく開かれているので可能性があるまちなのかな、と思いますね。

竹内:木原先生や木原ゼミの今後の展望って何かありますか?

木原:西陣での活動を、私も学生たちも末永く続けていきたいですね。卒業してからも西陣や牟岐町を第二の故郷だと思ってもらえたら。

竹内:我々も企業として時間をかけて西陣に関わってゆきたいなと思いますね。ソニーCSLが京都研究室を立ち上げたのも数年のスパンではなくて、もっと長く西陣にいて地域の一員として認めてもらいたいという気持ちからなので、気長にいこうとしています。

木原:その点、学生は短期間にどれだけの人に出会えるかが重要になります。「西陣connect」や「町家 学びテラス・西陣」、「西陣ネイバーフッド」のような、拠点となる場所やプラットフォームがあることで、関われる人が増えて、個人の力は小さくても面的な広がりや厚みができてくるだろうなと思います。西陣に関わる人や拠点の数を増やしていくお手伝いもしていきたいですね。

執筆:山路健悟
編集:北川由依


記事一覧に戻る

CONTACTお問い合わせはこちらから