え、ここも西陣!? 上京区・北区の境界線を超えた先に描くまちの風景

2023.02.13


行政区として定められた「西陣」という地名はなく、住んでいる方でも、どこからどこまでが西陣かと言われると、首をかしげる方も少なくありません。とはいえ、西陣織に携わる職人が多い京都市上京区エリアが、西陣だという印象を持たれている方が多いのではないでしょうか。

今回は、「北区も西陣!?エリアを越えた先にある未来」をテーマに、一般社団法人my turn理事の福冨雅之(以下、福冨)さん、大塚美季(以下、大塚)さん、船岡山公園の運営に携わるSOCIAL WORKERS LAB(ソーシャルワーカーズラボ)の瀬川航岸(以下、瀬川)さんにお伺いました。

左から福冨さん、大塚さん、瀬川さん

すべてがちょうど良い。顔の見える暮らしを西陣で

福冨:my turnは「well being」(心も身体もともに、社会的にも健康な状態)をいち早くキーワードに取り入れ、2020年4月に立ち上げた団体です。現代の分断された暮らしで、まちの賑わい、人の笑顔を取り戻したいという思いから活動を始めました。どうやったら人と人がつながれるんだろうかと考え、拠点を北区の新大宮広間、大宮交通公園、さらさ西陣、船岡山公園などあえて複数に置いています。あちこちに拠点があることで、境界線が引かれていない、人が行き来しやすいエリアになるようにつながっていき、人の笑顔をつくっていくことを目指しています。

福冨:北区にフォーカスしている理由は、my turnのメンバー13人のうち6人が北区在住だから。パリ市が15minute city(自転車移動15分以内で生活が完結するというコンセプト)をうたっていますが、交通手段として自転車あるいは徒歩で移動できる生活圏内で顔が見える関係がこれからは重要です。

大塚:今日もさらさ西陣から船岡山公園まで自転車できましたが、めちゃくちゃ近くてびっくりしました。

福冨:電話1本で物が届く便利な時代で、自然と身近に暮らしたいというのも、西陣にかかわりをもつ理由として大きいです。自然と文化に愛着を持ち、経済も発展させ、何より自分たちが楽しんで自然を取り入れながら暮らしていきたいです。僕は、時間・空間・仲間という3つの「間(かん)」をすごく大事にしています。

大塚:そうしたコンセプトをもとに、私はさらさ西陣の2階を活用して、Kita Living Lab(キタリビングラボ、以下キタラボ)という活動を始めました。

さらさ西陣。お風呂屋さんだったところをリノベーションしたカフェで、オープンして約20年になる。

大塚:母体であるCAFE SARASAは、夫が立ち上げメンバーの一人で、40年ほど前に富小路三条にできました。当時はいろいろな人が集まり、音楽、ファッションなどの活動が生まれていた、まさに若者文化の発信地としての位置づけでした。
しかし、良くも悪くも時代の流れとともに、文化の発信、若者の想いを発散させる場という意味合いが薄れてしまいました。夫も寂しさを感じたようで、ただ飲み物や食べ物を提供する場でいいのかという疑問を私に話してくれたんです。そこで空きスペースだったさらさ西陣の2階を「地域の繋がりが生まれる場所」をテーマとした拠点にしようと提案し、運営を引き受けることになりました。

福冨:さらさ西陣の特徴でもあるマジョリカタイルをモチーフとした編み物教室も開催されていましたよね。訪れる人や建物の特徴をいかしながら、世代や分野を超えて暮らしから関係性を紡ぐことは、共創の第一歩だと考えています。

編み物教室の様子

上京区と北区が混ざり合う、ひらかれた公園

瀬川:僕が船岡山公園に関わるようになったのは、設計事務所の「スタジオモナカ」が京都市の「公民連携 船岡山公園利活用トライアル事業」として2022年4月から船岡山公園での社会実験を開始したことに始まります。スタジオモナカは本社を公園管理事務所の2階に引っ越し、スタッフを常駐させ、定期的な公園内の巡回、ごみ拾い等の公園管理を自主的に行っています。

瀬川:しかし、設計事務所はハード面を得意としていますが、あくまでも設計の仕事がメインのため公園を訪れた人とゆっくり接する時間を持ちにくいこともありました。そこで僕が所属するSOCIAL WORKERS LAB(ソーシャルワーカーズラボ)が、ソフト面をお手伝いすることになったんです。船岡山エリアで人の動きを生み出そうとした時に、ソーシャルワーカーズラボが人とのコミュニケーションを促進し、人が集まる場をつくることで、賑わいがうまれるのではないかと考えました。そこで、毎月第3日曜日には「船岡山公園オープンパーク」を開催しています。

オープンパークで賑わう船岡山公園。オープンパークに参加することを目的に、全国各地から人が訪れるそう。(提供:SOCIAL WORKERS LAB)

瀬川:最初は地域の人がやりたいことを声にして、それをぼくたちが形にしていくとことから始めました。開始当初は机と椅子、フリードリンクを置く程度で、30人程の参加者でしたが、半年後には200人を超える人が訪れてくれるようになりました。

福冨:参加者を増やすために、何か工夫をされたんですか?

瀬川:地元PTAやサッカーチームの協力もあり、自然と広がっていきました。あとは、大学生にも加わってもらいながら、地域のみなさんとの関係性を紡いでいます。例えば、地域のラジオ体操に普段から参加し、ご年配の方との繋がりをつくり、そこからオープンパークにもきてもらうこともありますね。「誰が来てもいい」状況を、暮らしから紡いでいくことを大切にしてきました。何度も来るうちに、近隣の保護者が「ベビー服交換会」を始めるなど、自然と取組が広がっています。1回来ておしまいという方も最初は多かったけど、今では恒例行事のように楽しんで来てくれる人が増えたのは嬉しいですね。

船岡山エリアは西陣の心のよりどころ!?

大塚:瀬川さんは滋賀県ご出身ですよね。船岡山エリアで活動を始めてみて、地域性を感じることはありますか?

瀬川:ありますね。今、西陣の中でも上京区に住んでいるのですが、船岡山公園は、むらさきエリア(京都市北区の紫野、紫竹界隈の相称)としての活動も盛んな北区にあり、自然豊かなスポットです。犬の散歩やウォーキングなど憩いの空間でゆっくり過ごす人が多いですね。船岡山で活動を始めてから、上京区の人と北区の人は近くにいるのに混ざりあうことが少ない現状を知り、驚きました。

大塚:そうなんですね!知らなかったです。

瀬川:船岡山公園はどちらの区にも位置しているという特性があり、どちらの方面からも集まることができます。「上京区です」「北区です」と分断してしまうのではなく、船岡山という上京区なのか、北区なのかがあいまいなエリアに場ができたことで、今まで関わり合っていなかった人が出会っています。日常的に行ける公園という場所で、オープンパークでは自分の思いを声に出していいんだ、と思ってもらえているようです。

船岡山からさらさ西陣には、階段を降りてすぐ

大塚:オープンパークからの流れで、参加者がさらさ西陣にも来てくれていると聞いて驚きました。ありがとうございます。

瀬川:オープンパークには上京区や北区の人を中心に、他のエリアの人も参加してくれています。遠いところだと北海道、徳島などからも来てくれていますが、さらさ西陣が近くにあるカフェというだけではなく、元銭湯だったり若者が集まる場だったりという特性があることを話すと喜んでくれます。ただご飯を食べるだけでなく、地域の話をすることで愛着を持ってくれたり、次は別のお店へ行ってくれたりと、点と点が繋がり、どんどん面的に西陣エリアが見えるようになります。そうやって何度も足を運びたくなるまちになるなと感じていますね。

北区から見た西陣って実際どう?

福冨:ここまでお話しさせてもらったように、my turnは北区を中心としたフィールドで活動しています。しかし、拠点の一部が西陣エリアにあると言われても、「西陣と言っていいのかな?」と心配になってしまうこともあって(笑)。西陣には強いコミュニティがあるので、ここから先に足を踏み入れていいのかな、とまだまだ躊躇しているところもあります。

全員:うんうん(笑)

福冨:それも含めて、北区にある私たちの場所がもっと柔らかく、世代がやんわりと繋がれる場所になっていかなければならないですね。西陣って伝統的なエリアというイメージが強いですが、呼び名で分けられる境をもっとなくして交流した方が面白いですよ。

瀬川:僕は西陣エリアであることをあまり気にしていなくて、関わりづらいということは全くないです。むしろ西陣で活動する方々に人を紹介していただき、つながりが広がっていくことが多いです。自分にとっては一人ひとりとの関係が大事で、こっちのエリアだからどうということを意識してきませんでした。今後も常に、目の前にいる人と関係を結びあっていきたいです。

福冨:みんなで、エリアの境をなくして交流していきたいですよね。共創しようとする時に、一番大きな「想い」を共有することが大事だと思います。途中でプロジェクトが頓挫になることもあります。そんな時に、支えになるのは、掲げたビジョンや本気度、姿勢、仲間です。
西陣には、まちも自然もあり、お互いの顔が見えて繋がれる環境があり、コミュニティスペースのような拠点があちこちにある。これからもっと住みやすいまちになっていくと思いますよ。

描く未来のビジョンは、足もとから地球規模まで

大塚:共創に欠かせない「想い」について、キタラボがどういう思いで動いているかというと、「次の世代にどんな地球をのこせるか」、ただそこだけなんです。私は「北区地球村計画」というのを勝手に描いていて、100年後の地球のモデルとなるような北区をイメージして動いています。物質的な部分では100年後どうなっているかわかりません。でも、人間が何を幸せと感じ、喜びとするのかという感情は、100年後も変わらないと思うんです。そのビジョンに向かっていければ、上京区だろうと北区だろうと私には関係なかったりします。

瀬川:なんか、地球規模の話ですごいです!そのあとでなんですが……(笑)。僕自身は足もとから始めるしかないと思っていて。まず自分がこの公園に来て、同じく遊びに来ている人たちと、どうしたらまちがより良く変わっていけるのかを考え、一人ひとりと丁寧に向き合っていきたいです。一つひとつの変化がどんどん広がっていって、みんなの暮らしにつながっていくといいなと思います。願っていることは、大塚さんと同じ。この場所にこだわる必要はなくて、多様で自由で楽しくて面白い、そういう場であればいいなと思っています。すると、コラボレーションや開かれた対話が生まれていくはずです。

福冨:上京区も北区も、それぞれに理想とする地域や西陣の姿があって面白いですね。足もとから地球全体まで広い視野をもって取り組んでいきたいです。これからの展開がますます楽しみです。

左はスタジオモナカの岡山泰士さん。渋滞によって合流が遅れたことにより、写真のみの登場に。またゆっくりお話ししましょう!

執筆:岡元麻有(be京都)
編集:北川由依


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