2023.03.31
2023年2月23日~26日の4日間にかけて、西陣で活動する企業や工房、地域の人たちが交わり、西陣との関わりを模索する『24JIN NEXT 2023』が京都信用金庫西陣支店の駐車場や2階にある「クリエイティブコモンズNISHIJIN」にて開催されました。
同イベントの初日は、旬な新鮮野菜を使用したカレーを提供する『himeru』や創業150年以上の老舗かまぼこ屋『京かまぼこ大栄』が作るおでんと揚げたて蒲鉾、無農薬や減農薬にこだわる『妃屋(kisakiya)』のヴィーガンお菓子など、西陣で活動する魅力的なお店が参加するマルシェを実施しました。期間中は畳専門店やアクセサリー、自転車シェアリングサービスなど企業や工房のプロダクト展示、西陣で活動する企業との協業や西陣の特色を考えるトークセッションも開催。
そんなトークセッションの最終日、トリを飾ったのは、まるごと美術館/株式会社WAlive(ワライブ)代表の菅真継さんとNPO法人ANEWAL Gallery(アニュアルギャラリー)代表理事の飯高克昌さんによる『西陣を拠点に活動する事業者と考える西陣の未来』です。
トークセッションでは、二者がなぜ活動を始めたのかの経緯や活動しながら見えてきた西陣の魅力、さらには次の世代がどう西陣に関わっていくべきかが語られました。モデレーターは、株式会社ツナグム取締役タナカユウヤが務め、本記事では公開インタビューとして記していきます。
菅真継さん
まるごと美術館 / 株式会社WAlive代表。
1986年生まれ。京都市上京区出身。2017年の秋から「まちに文化的・経済的な賑わいを創造する」というミッションを掲げ、伝統工芸やアートの展示を寺社仏閣の特別拝観に合わせて実施する「まるごと美術館」の開催を毎年春と秋に行う。2020年には株式会社WAliveを立ち上げ、京都の職人とともに、伝統工芸の活きる新しい暮らしづくりを目指した商品の開発や販売を進めている。
飯高克昌さん
NPO法人ANEWAL Gallery 代表理事。
大学で都市計画・建築設計を学んだ後、設計事務所勤務を経て2004年アーティスト・クリエイターと共にANEWAL Galleryを設立。”外に出るギャラリー”をコンセプトに通りや地下道、廃屋から重要文化財まで都市の様々な空間に おいて文化・芸術と地域・公共を繋ぐ活動を展開。人々のアクティビティによる空間資源の活用と創出、その在り方を模索する。
タナカ:本日は、『24JIN NEXT 2023』に来ていただきありがとうございます!まず、株式会社WAlive代表の菅さんから活動内容の紹介をお願いします。
菅:みなさん、本日はよろしくお願いします。弊社は「まちに文化的・経済的な賑わいを創造する」をミッションに掲げています。地域に点在する有機的な資源をつなぎ、伝統的な未来を残すため、団体や個人、企業、施設と協業して新たな地域資源の創出を目指しています。
主な活動は、「展覧会」「資源開発」「文化体験」「地域活動サポート」の4つの軸があり、代表的な展覧会「まるごと美術館」は2017年から開催しています。
タナカ:ちなみに、「まるごと美術館」を知っている方はいますか?結構な方が手を挙げてくれていますが、初めて知る方もいるようですね。
菅:「まるごと美術館」とは、寺社仏閣の特別拝観と合同で行う「春・秋の展覧会」で、寺宝に加えアート作品や伝統工芸品の展示、ライトアップを実施しています。新型コロナウイルス感染症が蔓延する前の2019年が一番盛り上がりまして、約1万1000人来場いただきました。2020年からは規模縮小しつつ、継続しています。
タナカ:「まるごと美術館」は菅さんの原点となる活動のように感じます。そもそも、地域での活動を始めようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
菅:私は、北野天満宮のお膝元にある北野商店街に実家がありまして。大人になるにつれ、生まれ育った商店街のお店が閉まっていったり、知っているおじさんを見かけなくなったり。その状況をみて「僕なら変えることができるかも!」と勘違いしてしまったんですよね(笑)
タナカ:なかなかそうは思えないですよ(笑)。
菅:若かったんです(笑)。「商売がうまくいかなくて」「人がこなくて」と商店街のおばあちゃんからネガティブな意見を聞いて、「なんとかしたい」「おばあちゃんの笑顔を取り戻したい」という気持ちが強くなりました。それが活動の原動力になっています。
タナカ:その流れだと、商店街を中心に活動をしようと考えそうなのですが、なぜ今のような活動に?
菅:北野天満宮があるおかげで、地域にはそこそこ人がきてくれていました。でも、北野天満宮以外で観光できる場所が少ない。もっと西陣に観光できる場所が増え、人が回遊してくれないと、地域全体の活性化は遠いなと思いました。そこで、西陣に観光客を呼び込むことを目指して「まるごと美術館」を始めたんです。
初回の2017年は、妙顕寺と妙覚寺、本法寺の三ヶ所でライトアップを実施しました。2018年から作家さんとコラボが始まり、2019年には伝統工芸士や現代アート作家の作品と紅葉を楽しんだり、舞踏や音楽ライブ、障害者支援団体とのコラボワークショップの実施など社会課題も取り入れたりして、現在の「まるごと美術館」の形ができあがりました。
「まるごと美術館」に展示する作品には、アーティストが西陣を散策やリサーチして、感じたことが落とし込まれています。西陣の「らしさ」を表現した作品を通して、今までとは違う角度で西陣を感じてもらうことを目指しています。また、運営のボランティアさんにも西陣の歴史や文化についてリサーチをしてもらっています。来場者と話す時に、その人の言葉で西陣を語れるのが重要だなと考えていますので。
菅:現在、新たな活動を始めています。「まるごと美術館」で知り合った作家さんや西陣の工房さんと企業とのコラボを促進しています。例えば、玩具や模型、生活用品のメーカーである株式会社バンダイさまと染め職人が協業して、染めのスニーカーを制作しました。一足4万円とややお値段はしますが、人気ですぐに完売に。他にも、小嶋商店さまとコラボして、巨大提灯を制作。寺町商店街の出入り口に2つ飾っていただいています。
タナカ:このようなコラボレーションは活動当初から想定していたのでしょうか?
菅:していなかったです。来場者も増えていくなかで、「出展している作家さんを紹介してほしい」と依頼が増えてきました。特にここ1年で「良い作家や職人はいないですか」という相談が多いです。
京都にはたくさんの工房やアトリエがありますが、どこに依頼をしたらいいかわからない人がほとんどです。そこをうまくつなげて協業の数が増えると、西陣の経済的な活性化になるなと可能性を感じています。
タナカ:次は、NPO法人ANEWAL Gallery代表理事の飯高さんから活動紹介をお願いします。
飯高:よろしくお願いします。私は2005年に築130年の町家に住み始めたことがきっかけで活動を始めました。大学時代に建築・都市計画を学び、その後は設計事務所に勤めた経験もあったため、町家にはずっと興味がありました。
住み始めた町家は、中庭と離れがある典型的な町家で、1人で住むには広すぎるなと。そこで、「住む」「仕事」「交流」の3つの機能をもたせるには、ピッタリな空間だなと感じ始めました。また、一緒に住んでいた友人が大工をしていたこともあり、3年程かけて改修をしました。
その後、仲間内のアーティストに作品を展示してもらって、ギャラリーとしての活用を始めました。当時、町家で作品を展示するような事例はほとんどなく、かなり実験的なことだったのかなと。他にも、『KYOTOGRAPHIE(京都国際写真祭)』にも初年度から参加。海外の作家を誘致して、町家に作品を展示していました。
飯高:ギャラリー以外にも、2015年には町家を使って流しそうめんとワークショップを、町内会の地蔵盆の一環として実施しました。「うなぎの寝床」といわれるように間口が狭く細長い奥行きのある町家でしたので、その奥行きを体感したいなと(笑)。100人分くらいのそうめんを茹でることになったので、近所のお母さんに手伝ってもらいながら開催しました。
タナカ:面白い(笑)。町家を中心に地域の人を自然と巻き込んでいますね。
飯高:私たちは「外に出るギャラリー」をコンセプトにしており、公共空間のさまざまな使い方を実践しています。人間のアクティビティによって、どこでもギャラリーを出現させられると考えています。
タナカ:町家以外に公共空間でどんな活動を?
飯高:例えば、2018年に町家が取り壊された空き地で、建築家たちとパフォーマンスをしました。西陣織の端切れを使って、屋根のように吊るして、お香を炊きつつ風鈴を鳴らす。空き地になっても町家があったときの生活を感じられるよう制作しました。
また2014年には、京都市右京区の京北町で、地下道に車窓を描くイベントを開催しました。京北町は地下鉄がないので、「もし京北町に電車が通っていたら、どんな景色が見えるか」をテーマに地域の人たちと描いてきました。
飯高:最近は、路地に着目していまして。路地でしかできない鬼ごっこを考えたり、50メートル程の路地で、子どもたちを集めて落書きをしたり。2021年には、路地の魅力を活かしたまちづくりを推進することを目的に映像を制作。路地だらけ映像配信メディア “路地tv“をつくりました。京都だけではなく、滋賀や長崎、岐阜なども。海外だと韓国やフランス、台湾の路地動画を70〜80本制作して配信しました。
タナカ:町家から路地に注目した理由は何だったのでしょうか?
飯高:活動当初は町家の知名度は低く、活用事例が少なかったです。でも、時代も流れ、多くの人が町家を活用して、町家の価値も上がっています。需要があるのに、わざわざ私たちが町家で何かをする必要性もなくなってきたなと。
そこで、前々から気になっていた路地を舞台としたイベントを開催しました。路地にはアーティストや職人さんが住んでいることも多く、親和性があるなと考えていました。
飯高:現在、西陣においては四ヶ所の拠点を中心に、地域の人や企業との連携を強化しています。拠点はあるものの、コンセプトは「外にでるギャラリー」ですので、拠点が大事なのではなく、周囲にいる人たちとの関係やつながりを一番大切に活動をしています。
タナカ:西陣を中心に活動をしている2人ですが、“西陣の魅力”とはどういったものでしょうか?
菅:活動して気づいたのですが、歴史が凝縮されていることです。もともと歴史に興味がなかったのですが、お寺と組み始めて、西陣の歴史に興味を持ちました。有名な西陣織は古墳時代から始まっていたり、安土桃山時代には豊臣秀吉の区画整理で西陣にお寺が集められたり。そんな歴史が刻まれた場所が、密集している。歩いたら周れる距離にある。それは、地域を盛り上げるための強力な武器になる可能性を感じました。
飯高:どのジャンルを掘っても、掘りきれないというのは西陣の面白さだなと。私もまだまだ知らないことが多いです。そんな土地だからこそ、勘のいいアーティストが流れ着きやすいのかなと。地域の歴史や文化を感じ取って、作品にする。発表する場をつくったり、作品をみにくる人たちと文脈の整合性をとったりするのがわたしの役割だと考えています。
タナカ:移住した人に「何で西陣を選んだんですか?」と聞くことが多いのですが、たまたま物件が西陣で見つかったり、人に紹介されて選んだり、“流れ着いた”ような人ばかりで不思議なんですよね。そんな人が多いなかで、西陣で活動するのに向いている人の特徴はありますか?
飯高:自分のやりたいことで終了してしまっている人は向いていないなと思いますね。地域活動をするには、インターネットに掲載されていない情報を地域の人から教えてもらわなければなりません。コミュニケーションがベースとなり、互いのリスペクトが重要になってきますね。
菅:たしかに、自分がやりたいことをやって、できなかったら出て行ってしまう人も残念ながらいますよね。私が活動を始めたときも「どうせすぐに出て行くんでしょ」と地域の人から言われました。地域のコンサルティングや大学の取り組みなどは、1〜2年でプロジェクトがなくなることも多く、地域の人も受け入れるのに疲れている…という側面はあるかなと感じます。なので、忍耐強く活動を続けて、自分の活動に責任を果たせるかが重要ですね。
タナカ:菅さんがおっしゃるように長く続けることは大切ですよね。それを踏まえて、2人の活動を未来に繋げるためにも。次世代の人に任していくことも課題になってくると思うのですが、どう考えていますでしょうか?
菅:若い人たちの力を借りて、西陣をもっと多くの人に知ってもらいたいですね。まるごと美術館を開催した際にアンケートを実施しているのですが、「初めて西陣というエリアを知った」という人が多くて。京都に住んでいても、西陣を訪れる人はまだ少ない状況です。そこで、TikTokやInstagramなどのSNSに長けている若い人の力を借りて、宣伝方法を一緒に考えていきたいですね。
飯高:次世代の人たちが、何をしたいかにもよりますが……。海外への発信はやっていきたいですね。2019年には、芸術家の育成や国際的なネットワークを構築していく『Res Artis Meeting 2019 京都「創造的遭遇-アーティスト・イン・レジデンスの再想像」』を開催しました。。海を越えて、つながれたのは胸が熱かったですね。海外の人が西陣に興味をもってくれて、それを受け入れる土壌ができていると知ってもらえると、いろんな可能性が生まれると考えています。そのためにも、継続的な発信が大事になってきます。
また、地域のネットワークを拡大しつつ、アーティストだけではなくさまざまなバックグラウンドの人たちを受け入れる“受け皿”を広げていく。ただ、受け皿の網目が荒いと落ちていってしまうので、私たちは網目を細かくしていかなければいけません。よい状態の受け皿で次世代に渡していけたらと思います。
タナカ:次世代への引き継ぎ方も大切になっていきますね。コロナの影響も少なくなり、イベントの開催も少しずつ増えてきました。今後の展望を教えてください。
菅:とにかく継続を大切にしていきたいですね。コロナの影響で、密接な環境を避けるためにも工房ツアーを中止していたので、今後は再開したいですね。企業からも「西陣の工房や神社を巡りたい」という相談がきているので、企業と職人やアーティストとのコラボに寄与して、経済的な活性化につなげていきたいです。
飯高:私たちはアートとまちづくりを両輪としていて、“つなぐこと”が大事だと考えています。アートだと、西陣に暮らすように滞在し、アーティストが地域の人たちと交流する『アーティスト・イン・レジデンスプログラム』を再開したいですね。アーティストが作品を作るのにリサーチするなかで、どう地域の人たちと協力していくかはまだ経験が少ないので、菅さんと後日お話できると嬉しいです。
タナカ:菅さん、飯高さん、本日はどうもありがとうございました!今後もお二人の活躍が楽しみです!
執筆:辻野結衣
編集:北川由依