2021.11.24
西陣織の産地として古くから栄えてきた西陣エリア。今も路地を歩けば、どこからか「カタカタカタ……」と機織りの音が聞こえてくる、情緒溢れるまちです。しかし、西陣織の需要が減少して以降、外から見える西陣は住宅街としての印象が強まっています。
ただ、近年、そんなものづくりや歴史文化を身近に感じることができ、職住近接の暮らしを魅力に感じる人がじわじわと増えてきています。また、人が行き交うゲストハウスやカフェ、コワーキングスペースといった場所、多様な働き方を受け入れる企業などもあり、さまざまな領域で活動をするクリエイティブな若者も多くなってきました。
今、彼らがつながり、コラボレーション活動をすることで、西陣は西陣織で栄えた頃とは異なる、新たな魅力が生まれています。そうした動きを捉え、つなぎ、また共に盛り上げようとする人たちが集うことで、「西陣ネイバーフッド」構想ははじまりました。
コアメンバーは、前職をきっかけに西陣に関わり、現在も西陣にオフィスを構える株式会社ツナグムのタナカユウヤと、西陣で暮らすデザイナー三ツ木隆将、そして日本各地で企画作りから空間作り、コミュニティ運営まで伴走するデザイナーの関目峻行です。
秋も深まってきた2021年10月、「町家 学びテラス・西陣」に集まってもらい、立ち上げにあたっての経緯や今後目指すところなどを語り合いました。
タナカ ユウヤ
1984年生まれ。滋賀出身。2015年3月、株式会社ツナグムを創業。人と人、人と場のつながりから新しい事業や幅広いサービスづくりを行う。現在、京都を拠点に複数のシェアオフィスやコワーキングなどの企画運営、商店街の活性化、地域のこれからづくりなどを展開。京都への移住促進事業「京都移住計画」は、全国各地への広がりを生んでいる。
関目 峻行
1990年神奈川県生まれ。日本各地で企画作りから運営まで伴走するデザイナー。shirokuma design hut.として「クリエイティブで新たな日常を」というコンセプトを掲げ、社会や世界を観察し新たな“解”を模索しつつ、各地域の人々とバショやモノ、コトを共に創っている。
ミツギ タカユキ
1974年生まれ。京都・西陣在住。three treed designとして活動するフリーランス デザインカタリスト。京都を中心に様々なデザインプロジェクトに参画。店舗のデザインや商品プロデュース、ウェブサイト、グラフィックデザイン制作など幅広い分野でトータルなデザインを行う。2018年より世界的カンファレンスイベントであるTEDxKyoto License 兼 Organizerでもある。
そもそも「新しい西陣をつくりたい」からはじまった「西陣ネイバーフッド」とは、なんでしょうか?
タナカ:かつては西陣=西陣織しか見えていなかったところから、そうではない西陣で暮らしている人の顔が見えるようになったことが大きいです。このまちには、西陣織以外にも魅力的なプロダクトがあるし、人や事業者がいます。
そうした人や物事を見える化していきたいと考え、ここ数年で開催した「つぎの西陣をつくる交流会〜つぎにし〜(主催:京都市)」の先の提案として「西陣ネイバーフッド」が生まれました。
三ツ木:実はこんな話を僕らが出会った頃からしていて。当時から西陣にいろんな人を巻き込みながら、化学反応が起きるまちにしたいって語り合っていましたよね。飲み屋で(笑)
タナカ:そうでした(笑)三ツ木さんとの出会いは、2014年頃に僕の前職で運営していた拠点での偶然な出会いから、その後の「上京OPENWEEK」や「上京クリエィティブネットワーク」の展開でより密になっていきましたね。
※上京OPENWEEK:上京区をまるごと会場にみたて、寺院、お店、工房など様々な場所を巡り、新しい上京区と出会うイベント。
※上京クリエイティブプラットフォーム:京都の上京区を中心とした個人や団体、NPO、企業によるゆるやかなネットワーク。
三ツ木:当時西陣に引っ越したばかりで、町内会に入ると人間国宝に選ばれるような人があちこちいることに驚いて。もっといろんな人と交流したいし、つながりたいと思いましたが、面白い人と出会えるプラットフォームがありませんでした。そんな時、「上京OPENWEEK」を知って、イベントに終わらせず、面白い人と交流する場を日常的につくりたいと思うようになりました。
タナカ:でもお互い忙しくてなかなか動き出せず……。ずっと温め続けていた構想です(笑)
とはいえ、決して何も動いてこなかったわけではありません。出会いから現在に至るまで、タナカと三ツ木はそれぞれの視点からまちへの関わりを深めてきました。
タナカ:2016年からは、西陣の織物会社である「株式会社都」さんにお声がけいただき、自社ビルの一角に新たに作られたシェアオフィス&コワーキングスペース「385PLACE」の運営サポートを約4年間させていただきました。三ツ木さんも会員として利用してくれていましたし、そこで関目くんとも出会いました。
関目:北九州から移住先を探していた時、知り合いに紹介されたのがタナカさんでした。僕は、その瞬間に一緒にいる人と、領域に縛られることなく何かを創りつづけたくて、それが当事者以外の人の暮らしにもいい影響のあるような仕事をしていきたいと思っています。それは人と人のつながりの中でしかできないことなので、僕の周りだけではなく、タナカさんや三ツ木さんの周りの人たちが、西陣でつながった先の景色を見てみたいなと思い、今回メンバーに加わりました。
タナカ:僕は楽しく飲み続けられる「京都」にしたいとずっと言っていて、それがここ数年、西陣との関わりが深くなるにつれて、楽しく飲み続けられる「西陣」にしたい、に変わっていきました。楽しく飲み続けられるというのは、関目くんのようにやりたいことがある人がやりたいことをできる環境をつくり、彼らと一緒に飲むということ。
「西陣ネイバーフッド」では、西陣で活動する面白い人たちがWeb上にも見える化されて、外と中がつながるような場にしたいと考えています。それは「新しいカタチの町内会」のようなもので、ゆくゆくは今ある町内会とも交わっていくことを目指しています。
活動する中で多くの出会いに恵まれた一方、浮き彫りになってきたまちの課題もあります。そうした課題を、コアメンバーの3人に限らず、内外から広く「ネイバー」を募集することで解決し、西陣を「創造性の生まれるまち」にしたいと考えます。
タナカ:西陣には三ツ木さんのようなデザイナーをはじめ、イラストレーターやプログラマー、そして様々な事業者がいます。しかし、ロゴやWebサイト制作の発注先を聞くと、東京の業者であることも多々。めっちゃ近くにクリエイターがいるのに、もったいないと思いました。
三ツ木:京都は地名にブランド力があるので、東京資本の会社がビジネスとしてサービスを提案しにきます。一時的にはそれもいいのですが、長い目で見るとサステナブルな環境をつくった方がいいのではないか、つまり西陣に住んだり活動したりしている人たちが何かやった方がいいんじゃないのって考えることも増えました。
関目:西陣織にしても、アーカイブされていない技術や情報がたくさんあります。時代の流れによって消滅する産業もありますが、それでもどのような変遷を辿ったのか振り返ることができるよう、残しておくことは、後世のためにも大切だと思います。
タナカ:西陣は横のつながりが薄いことで、もったいないことになっているエリアなんです。違う売り出し方や切り口がまだまだあるはず。小商い系の事業に限らず、アプリ開発にしても東京へ行かずとも、西陣でもサポートできる体制が整えば、人口流出を抑えることもできる。いろんな可能性が詰まっていることを、もっと見せていきたいです。そこにみなさんにも「ネイバー」になっていただき、ぜひ関わってほしいです。
※「ネイバー」は「西陣ネイバーフッド」の住民(会員制度)です。
構想を実現するため少しずつ動きはじめた「西陣ネイバーフッド」。1年目は、どのような活動を予定しているのでしょうか?
タナカ:11月にWebサイトをリリースし、西陣の動きを見える化していきます。コラボレーションの事例や現在進行形で動いているプロジェクトを紹介し、西陣の人や事業者を知ってもらいたいです。初期は僕らやその界隈の動きが多いかと思いますが、これからは出会いの数だけプロジェクトも増やしていきたいと考えています。
三ツ木:情報発信は記事に限らず、動画・写真など様々なツールを用いて、アプローチしていきたいです。最近は音声メディアも注目されつつあるのでラジオとかもやれるといいなと思っています。
関目:年度末には展示会を予定しています。「西陣ネイバーフッド」構想ってなんなのかをまず知ってもらいたいですね。一般的な展示は、「この地域でこんな面白いことが起こっています。楽しそうでしょ」で終わり、入り込む余地がありません。僕らはそうじゃなくて、「西陣にはこんなに課題があって、これを解決する人がほしいんです」と「関わりしろ」を見せていきます。その中で、僕らが課題を解決する手段として、「西陣ネイバーフッド」がやっていることが伝わればいいなと。
タナカ:西陣に興味を持ってもらえるよう、Webサイトや展示会などいろんな入り口を準備していきます。2年目以降は、展示会を東京でもやりたいとか、冊子をつくって届けたいとか、やりたいことは広がっています。とはいえまずは足元から。「ネイバー」を募りながら、一緒に西陣を面白がってくれる人との出会いを楽しみにしています!
執筆:北川由依